267 馬車の向かう先
大体こういった場合は、先に出た方が注意を引きつけて、本命はその後に出るものと相場は決まっている。だからルーファスは後から出発した馬車の追跡を希望した。
ルーファスはマリアを救い出す役割を誰にも譲りたくなかったが、それだけではなく彼には今回のメンバーの中で誰よりも強いという自負があった。マリアを1番確実に助けられるのは、間違いなく自分だと思う。
ふとルーファスが馬上から夜空を仰げば、木々の間から朧な月が幽かに覗いていた。
(いつの間にか雲がこんなに……。暗いな、いや、奴らからも見えづらいのは、かえって好都合か……)
月明かりは地上を薄らぼんやりと照らすだけで、その頼りない光がもたらすものが、吉なのか凶なのかまったくわからなかった。ただ希望の光を霞ませることだけはやめてほしいと考えながら、ルーファスは雲間に滲む月を見る。
ルーファスとオーラン、そして警備隊員のマックスの3人が、縦隊を作り、例の馬車から相当な距離を保って静かに馬を歩かせていた。
そしてその少し前を迷いなく進む小さな獣。
時々振り返るときに輝く、闇に溶け込む黒い毛並みとは対照的な金の瞳が美しい。
クルーガー侯爵の家で、ルーファスをマリアのいる部屋まで先導したのはブラックだった。森を本来の棲み家とするブラックは、今もまた、とても頼りになる相棒に相違なかった。
道すがら、オーランが木々に等間隔に印をつけて、即席の道標とする。マリアが捕らえられているのはどちらか1台なのだから、違った場合は引き返す必要がある。
「……これは王都に向かっているのか?」
ルーファスはこの曲がりくねった悪路の終着点を予想して呟く。ほとんど見通せない空に方角を示す星が見えたときには、かなりの時間が経っていた。もう日付も変わっている頃だろう。
大体、こんなふざけた道ではオレイユと王都の管轄区域の境界線もわからない。境界線が明確なのは主要な道路だが、それほどの遠出なら、主要な道路を使わなければ時間がいくらあっても足りない。
果たしてルーファスの懸念の通り、彼らが進んでいたのは地図にもない王都に通じる旧道だった。
「このままではもしマリアがあの馬車にいなかった場合、間に合わない。オーラン殿、もう終わりにしましょう」
ルーファスがオーランの横に馬をつけて話しかけると、オーランもまた同じ事を思っていたのか、一も二もなく同意した。
一気に速度を上げ、馬車を急襲する。
突然のことに御者よりも馬車に繋がれた馬の方が驚いていた。甲高い嘶きとともに前足を高く上げて暴走する。制御を失った馬車が岩に乗り上げ木にぶつかり、車輪が外れて中破した。用心棒がわりの男がたまらず1人ふらふらと出てきたところを、すかさず捕縛する。御者の方はとっくに振り落とされていた。
ルーファスが幌の内側を暴く。
「マリア! ……?!」
作者の性格上、後味の悪い話は書けませんので、安心して読んでください(;・∀・)




