264 あのお方
R15です。痛そうな描写があります。苦手な方はご遠慮ください(。´Д⊂)
先に立ち上がった隻眼の男に呼応するように、マリアを拘束する太い腕がほどかれた。
「その娘は2度と手に入らない貴重な『商品』だ。絶対に手を出すなよ」
「へーい。じゃ、ねぇちゃん、また目ぇ、隠すぜ?」
睨みをきかせる1つだけの眼にも臆せず、髭面の男は相変わらず軽い返事をした。そうして再度手にしたはずの目隠し用の布が、なぜだか髭面の男の掌からするりと抜ける。
「女の顔に痕がついている。目隠しはいらん」
消えた目隠し用の布は、隻眼の男の手中に収まっていた。つまりは奪われたのだ。
「こんな痕、すぐに消えますよ。傷がついてる訳でもないんだから」
「手足の布も外せ」
隻眼の男はマリアの顔の痕を見て不快そうに吐き捨て、さらには手足を拘束する布を忌々しそうに見た。
「ウィスタリアの女は価値が違うんだ、傷ひとつ、痕ひとつ、何もつけるな。そうあのお方からも言われている」
髭面の男はめんどくさそうに肩を竦める。
「そんなこと言われたって、俺はあのお方のことなんて、何1つ知りませんからね。あー、怖い怖い。ほどきゃ良いんでしょ、ほどきゃ」
マリアは自由を取り戻した手を解すように、早速手や指を動かしてみる。血が通うような感覚を覚え、次に足首も回した。
「逃げられたらどうするんスか?」
「こんな女が俺たちから逃げられると思うか?」
足首をさすりさすりしたり、手をグーパーしているマリアの様子に男たちの視線が注がれた。それにハッと気づいた空色の瞳が、また瞬く間に怯えを含み、うるうると涙ぐむ。
「……たしかに、逃げられなさそうですね」
「だろう?」
男たちの見解が一致したところで、髭面の男が嘆息まじりに言った。
「でもほかの女と子どもはどうします? あっちの方はむしろ相当きつめに縛ってありますけど」
「あっちの方」を示す指先につられ、マリアも視線を走らせた。
目の前に広がるのは、衝撃的な光景。
やはり部屋はマリアと男たち2人だけではなかった。
倉庫のようなこの部屋には、マリアの入っている鉄格子のほかに、その斜向いにさらに小さめの動物を入れるような鉄の檻が2つ設置されていた。そしてその中には、それぞれ女と子どもが、3人ずつ、合わせて6人も入れられていたのだ。
彼らは身動きも取れない窮屈な檻の中、目隠しに猿轡、さらに麻縄のようなもので手足を拘束されていた。そしてそれらは全て、肉が歪むほどきつく締め上げられている。
見ているだけで痛そうで、マリアは直視できなかった。人間の尊厳が塵のようだ……。
隻眼の男は酷薄な笑みを唇にのせる。
「あっちは良い。子どもは基本的に労働力としか見られてないし、女どもの代金はもう前払いでもらっている」
「わかりました。まぁ、お頭がそういうなら」
「見張りだけはしっかりしとけよ」
「へーい」
その会話を最後に、マリアだけが鉄格子に残され、鍵がしめられた。
「処女じゃなかったら、味見するんだけどな……」
「…………!」
「くくく、安心しな。俺も命が惜しいから、ねぇちゃんみたいなのは手は出さねぇよ。俺の仕事は『商品』の調達と運搬の準備までだからな、後のことは知らん」
髭面の男はそのまま部屋の入り口を塞ぐように、どっしりと胡座をかいて腰をおろした。下卑た笑いを顔中に浮かべる。
「ご主人様に美味しく食べてもらえよ? あー、金持ちはいいよなぁ! 食べ放題なんだから」
そうしてしばらくする髭面の男が船を漕ぎ始めた。どうやら見張りのお務めも果たさず寝てしまったらしい。マリアはごそごそとリボンの中に手を入れた。
(お頭さんが言っていた、あのお方が悪い人たちのトップなのかしら……)
ルーファスの温もりなんてあるわけがないのに、自由になった手で岩塩を撫でる。心細さがほんの少し癒された。
(まだまだ始まったばかりよね。……くすん……でも怖い……。ルーファス、早く助けに来て……)
あのお方って、なんか見た目は子ども頭脳は大人的な感じですが、たまたまこの表現です……。
すみません(-""-;)




