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没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第6章 ガルディア王国後編
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259 甘い物は好きですか?

「……はい……買うつもりです」


 エドの猫のような目は興奮のあまり瞳孔が開いていて、ややホラーだ。肩に置かれた手もやたらと重く、とんでもない圧を感じる。マリアは無意識に敬語で話していた。


 子どもの手のひらに収まってしまうほどの、小さなハート型の焼き菓子。プレーンやココア、キャラメルにコーヒー、色んな味が可愛らしい小箱に入っている。

 ルーファスにあげるという体裁(ていさい)で、マリアも少しだけ分けてもらうつもりでいたが、よく考えてみれば、それは食い意地の張った子どものようで恥ずかしいし、エドにも悪い気がしてきた。

 気まずさも手伝って、小さな声でマリアは言う。


「とっても可愛くて美味しそうなんだもの。ルーファスと一緒に食べたかったの」


 美味しいものを好きな人と共有したい。マリアの思考がわかりやすく垣間見えて、エドは苛立って仕方ない。

 いちゃついて食べさせ合うルーファスとマリアの姿を想像すると、糖分過多で胸焼けしそうだ。マリアはただシェアしたいだけだとしても、自分の精神の安定のために、リスクはできる限り減らしておきたい。


「マリア! それは俺と食べようぜ」

「エドと?」

「ルーファスさんは甘い菓子より、肉が好きだろ」

「それはそうかもしれないけど、ここはケーキ屋さんよ?」


 当然、ケーキ屋には肉はない。肉があるのは肉屋だ。マリアは話の雲行きが怪しくなってきたことを肌で感じた。


 昔からいつもそうだ。マリアがお菓子を作ってルーファスに渡そうとしても、エドに食べられてしまっていた。奇跡的にルーファスの口に入ったときはとても喜んでくれたが、それは数えるほどしかない。

 正式に婚約した今こそ、「恋人の日」に彼にお菓子をあげたいのに、そんなささやかな希望が危うい。


 そもそもマリアはエドとの喧嘩に1度も勝ったことがなかった。勢いに丸めこまれて有耶無耶(うやむや)になるのが関の山だ。


「私は……」


 マリアが反論しようとしたとき、店主が話に入ってきた。


「肉はないが、肉と相性が良いのならあるよ。ちょっと待っててくれよ、お嬢ちゃん」


 そして奥に入った店主が戻ってきたときには、小さな袋がその手に握られていた。灰色と白が混ざったような半透明な小石が入っている。


「たまたま行商人からいくつか買ったんだ。分けてあげるよ」

「よし、マリア! ルーファスさんにはそれにしろ! おじさーん、それ下さい」

「勝手に決めないで……むぐっ」


 話途中でマリアの口を塞いだエドは、ニヤリとした笑みを口もとに刻む。悪い顔をしていた。


「マリアは優柔不断だからな、俺が決めてやるんだ。あ、おじさん、俺はこっちので」

「お買い上げありがとう。兄ちゃんにはこれだな、ハートの焼き菓子。甘さは控えめだからな、男でも旨いぞ」

「お願いしまーす。ほら、マリア、財布出せよ。ちゃんと3倍返ししてやるから」

「んーんー! むぐぐぐ……」


 解放されたマリアは渡された小さな包みを眺めた。その中に入っているのは、少し透明感のあるただの小石……? マリアはわからず、店主に尋ねる。


「あの、これは何ですか?」

「北方の山岳地帯で採れる岩塩だよ。肉料理にかけると、肉の味が生きるんだ」

「そ……そうですか」

「だってよ! マリア良かったな、ルーファスさんにしっかり渡せよ」

「うん……でも岩塩……岩塩よ……? 皆がお菓子あげる日に岩塩……」

「気持ちが籠ってりゃ、何でも良いんだよ」


 ルーファスなら何でも喜んでくれることは間違いないが、岩塩では甘い雰囲気はつくれそうもない。

 マリアは今日も戦いに敗れ、がっくりと肩を落とした。

マリアは囮にならなきゃいけないのに、どうやってルーファスに渡すつもりなのか(゜ロ゜)

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