25 (エド視点) 俺のマリア
俺のマリアが、5年前に結婚を断ったクルーガー侯爵にまだ狙われていた。
マレーリー様の借金につけこみ、この屋敷ごとマリアを手に入れる算段らしい。金の力で可愛いマリアを自分のものにしようとするなんて、大人は本当に汚いと思う。
そのことを告げられたマリアは、かわいそうに顔面蒼白になって食堂を出ていってしまった。俺はいてもたってもいられず、すぐ後を追おうとしたら後ろからものすごい馬鹿力で腕を引っ張られた。腕が抜けるかと思った……。犯人は予想通りルーファスさんだった……。
この人、優しいふりしてとんでもないんだよな。腕は立つし、頭も良いからかなわないし……。でも早くマリアを追いかけたいので、勇気を出して言ってみる。
「マリアを追いかけたいので放してください」
ルーファスさんは皆の手前もあるのか丁寧に答えた。
「お嬢様は混乱しているから、私が行くよ。エドは待っていてくれればいい」
馬鹿力で掴まれたままの腕がものすごく痛い……。俺がそれでもマリアのもとに行こうとすると、ルーファスさんが、俺の耳元で俺にしか聞こえないように囁いた。
「………」
その言葉に戦慄し、機能停止に陥った俺を置いて、ルーファスさんはマリアを追いかけた。
戻ってきたマリアは泣いたのか、目が赤かった。でも懸命に笑顔をつくって、大変なのは自分なのに皆に心配かけたことを健気にも謝るので、俺はなんだか切なくなった。
「そんなに無理しなくていいのに」と思うと、マリアを抱きしめたい衝動にかられたが、マリアの隣に立つルーファスさんを見て我慢した。殺されたくない……。
マレーリー様がマリアにこれからどうするのか聞いたら、マリアはルーファスさんと目を合わせて言った。
「ルーファスの里帰りに、ついていくことにしたの」
男の実家に行くって、結婚を前提にした恋人どうしみたいじゃないか? どうせマリアのことだから、ルーファスさんが提案したことなら正しいと、盲目的に信じているんだろうけど……。
ルーファスさんはそんなにいい人じゃないぞ、騙されるなよ、マリア……。
俺が思わず驚きの声をあげ、マリアを止めようとしたら、俺の方が両親に口を塞がれた。後から両親になぜ止めたのか聞いたら、冷静に諭された。ルーファスさんなら他国に無事にお嬢様を連れ出せる可能性が高いが、お前にそれができるのかと。アストリア王国内では、侯爵の力は絶大らしい。
俺はできると言いたかったが、言えなかった……。俺とルーファスさんじゃ、実力が違いすぎる。
俺は悔しい気持ちを抑えて、翌日二人を見送ることにした。




