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没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第6章 ガルディア王国後編
259/295

258 恋人の日

 赤い屋根の小さなケーキ屋に足を踏み入れると、甘い香りがマリアたちを迎えてくれた。

 扉に嵌め込まれたガラスは、賑やかな通りの様子を切り取っていて、こじんまりとした店内は優しく素朴な雰囲気だった。


 自分に向けられる視線の多さに、マリアはすっかり疲れてしまっていた。しかしその視線の中に、(くだん)の人さらいのものが含まれている可能性がある以上、耐えなければならないのが、また辛い。


 だからせめて少しだけ、休憩したかった。


「何か買うのか?」


 至極尤もな質問がマリアの頭上から降ってきたので、彼女は店主の姿を探しながら答える。


「人混みに酔ってしまったの」


 ほかに客のいない店内は、静かで話しづらかった。


「……そうか」


 自信に満ちた女なら、他人からの注目を集めれば集めるほど、その輝きを増すこともできるのだろうが、マリアは生憎(あいにく)そういうタイプではない。


「でも、せっかくだから何か買いましょう。ほら、とてもおいしそう」


 ショーウィンドウに並ぶ宝石のようなケーキや焼き菓子は、マリアを強烈に惹き付けた。

 サクラからも沢山菓子はもらったけれど、あれはあれ、これはこれだ。どちらも美味しくいただけるなら、これ以上幸福なことはない。


「いらっしゃーい」


 そのとき、奥から白髪のお爺さんパティシエが顔を出した。ほかに店員もいないようなので、おそらく彼が店主だろう。

 魅力的な商品にすっかり目移りしていたマリアは、決めかねて尋ねてみた。


「どれがおすすめですか?」

「恋人の日のお祝い? 彼氏にあげるの?」


 マリアは正式な婚約届を出すときにルーファスがそのようなことを言っていたのを思い出した。たしかにハートを(かたど)った商品がいくつかある。


「恋人の日? へー、聞いたことないな」


 エドは初耳だったらしく、身を乗り出して聞き返した。


「ああ、君たちは外国の人か。その日は、好きな相手や恋人にお菓子をあげるんだよ。本当は昨日なんだけど、忙しいと日付をずらしてお祝いすることもあるから、てっきりそうなのかと」


 店主はショーケースを指差して、柔和な顔をさらに優しくした。


「このあたりがその商品だ。もうあまり残っていないのが申し訳ないね。……彼氏は何が好きかな? 」

「彼氏って俺のことですか? そう見えますか?」

「見えないこともない」

「……なんか、微妙ですね。実際、残念ながら違うんです」

「おや、やっぱりそうかい」

「俺はそうなりたいんですけど……な、マリア? って、おい聞けよ!」


 マリアは商品を教えてもらった辺りで、ショーウィンドウに釘付けになってしまい、彼氏云々(うんぬん)の話は聞いていなかった。ただ可愛らしい菓子にテンションが上がり、よそよそしさが消えていた。


「私、これ買おうかしら。この可愛いハートの!」


 うれしそうにマリアは声を上げるが、エドは冷ややかだった。


「……まさか、この俺の前で、ルーファスさんへの贈り物を買うつもりか?」

前回の後書きで週末更新って言ったのに、平日に更新してすみません。

これからもよろしくお願いいたします(´・ω・`)


なるべく頻繁に最新話を投稿していきたいと思っています。

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