253 ルーファスの過去6
R15ですが、そういうシーンはありません。
父親の性的な話を聞くことは、息子としてあまり気分の良いことではなかった。しかしもう隠し事はしないという決意がそうさせたなら、真摯に受け取るべきであろう。
そんなことを考えながら、ルーファスは耳を傾けた。どうせ胸くその悪い話に決まっている。
「産まれたのは男子だった。実の息子に家を継がせるために、お前が邪魔になったんだ。だから……」
父親は言葉を濁したが、その先は充分すぎるほどわかっていた。誘拐に見せかけてルーファスを奴隷として売れば、金も手に入り、邪魔者も始末できて一石二鳥というわけだ。
それなのに帰って来てから、ルーファスは肝心の弟の姿を見ていない。
「弟の姿が見えません。弟は……今どこに?」
予想された質問なのか、父親は落ち着いた様子で答えた。
「あの子は男子を必要とする家に養子に出した。そもそも……あの子は私の息子ではなかったんだ」
「どうしてそう言い切れるんですか? あの女と関係はもったのでしょう?」
まだ10代も前半の子どもの直截な物言いに、父親の方が戸惑ってしまった。スラムに浸かれば大人びるのは仕方ないが、いざそれを目の当たりにしてしまえば苦笑するしかない。
「お前が誘拐されて数年後、共犯者である男とその女が金銭トラブルを起こした。その男は使用人だったから私がまず事情を聴取したところ、事件への関与をほのめかした。そこで罪を軽くする情状意見を書いてやると男に約束をしたら、すべてを白状したんだ」
「そのわりには時間がかかりましたね、見つけ出すのに」
絶望に祝われた6歳の誕生日を思い出すと、嫌みの1つでも言いたくなった。
「それまでは何も情報がなくて、国内を懸命に探し廻っていた。男から情報を得てガルディア王国まで捜索の足を広げたときには、お前が売られたはずの主は殺されていて、そこで足取りが完全に途絶えた。だから後は地道に探し続けるしか方法がなく、こんなにも遅くなってしまった」
「そうでしたか……」
アンダーシュバルツはすべてを飲み込む暗黒の街で、あそこに紛れて生きていたルーファスを、父親が見つけられたのは奇跡的なことに違いなかった。ほんの少しだけルーファスの気が晴れる。
父親は続けた。
「その男は女の愛人……いや、あの女は私の妻ではなかったから恋人か。ともかく男女の関係にあった。あの子の父親はその男だ。計算が合わないと、以前から私も疑問には思っていたんだ」
死別で再婚が可能にも関わらず、ルーファスの父親はその女に妊娠を告げられても再婚はしなかった。
亡き妻への想いを捨てきれなかったこともあるが、滲出するように親子の間に確実に存在を残していく女に、理屈ではない薄気味悪さを覚え、躊躇ったことが幸いした。
「本当に、すまなかった」
また深々と頭を垂れる父親を、ルーファスは複雑な思いで見つめる。しかし彼にはまだ聞かなければならないことがあった。
「あの女はどうなったのですか? どれくらいの罪に……」
ルーファスが言い終わらないうちに、父は顔をあげた。
「あの女は自分に罪が及びそうになると、自分の子どもすら置いて逃げ出したんだ。今も行方はわかっていない」
悪の組織の親玉がルーファスママ(もどき)って訳ではないです。「ざまぁ」されていたのか、されるかは、今後の話をお待ちください。
このエピソードで完結なので、見捨てずに最後まで読んでいただけると本当にうれしいです(T-T)




