251 ルーファスの過去4
行き場所がなかったルーファスは、そのままガルディア王国の一大スラム「アンダーシュバルツ」に逃れた。病巣のように王都に絡み付くその場所は、今も昔も、世を怨む者たちの吹き溜まりだ。
そこでルーファスは、デリシーとその母親と出会った。一緒に暮らすうちに、彼女たちの優しさが彼の凍てついた心を少しずつ溶かしていく。
それでも1度地獄を見てしまった少年は、もう何も知らなかった頃の自分には戻れなかった。
やがてデリシーの母親が亡くなり、2人きりになってしまう。ルーファスは時折危険な仕事をこなしながら、姉弟のように身を寄せ合って生きていた。
デリシーが身体を売らずに済んだのは、ルーファスの元ご主人様から拝借した財産のおかげだったので、それだけはあの貴族の豚に感謝していた。
そんなある日のこと。
終末の街におよそ似つかわしくない、背の高い紳士がルーファスの前に現れた。それは彼の記憶より少し老けた父の姿。
「ルーファス……すまなかった。迎えに来たよ。さぁ、一緒に家に帰ろう」
開口一番に謝罪した父を、ルーファスはどこか他人事のように眺めていた。彼の中で家族は既にいないのだ。そう思って生きてきたから、突然迎えに来たと言われても、感情が展開に追い付かなかった。
ルーファスの逞しくなりつつある背中を、デリシーは音が鳴るほど勢いよく叩いた。
「良かったじゃない! 私のことなんて気にしないで行ってらっしゃいよ」
デリシーとて寂しくないはずはなかった。しかし懸命に虚勢を張るその姿に、ルーファスも騙されてやらない訳にはいかなかった。
だから彼は帰る条件として、デリシーの今後を父に託した。父もまた息子の気持ちを汲み、彼女を信頼できる夫婦に縁付けた。
そうして7年ぶりに足を踏み入れた我が家。
思い出の中よりもずっと豪奢になっていた洋館に、ルーファスは懐かしさよりも先に居心地の悪さを覚えた。
小さかった妹はすっかり大きくなっていたし、赤ん坊だった弟はどこにもいなかった。そして自分によく似た叔母と名乗る女性がそこにいて、記憶との違いに残酷な時の流れを感じる。
父親は彼の知るところの、すべてを話してくれた。
ルーファスパパが話してくれるのは、「パパの知るところ」のすべてです。




