249 ルーファスの過去2
R15。暗いお話です。全体的にはハッピーエンドになるので、安心してお読みください。
そこからが地獄の日々の始まりだった。
連れて来られたのは、狭い鉄格子が建ち並ぶ異様な空間。入れかわり立ちかわり人が出入りしては、優越感を隠そうともしない下卑た視線と言葉で犯される。
ルーファスが守ってきた大切な何かが、身体からごっそりと抜きとられていくようだった。
しかし見目の良いルーファスは、その日のうちに、とある紳士がお気に召したとの理由で外に出された。幼い胸が期待に膨らむ。
「僕が何かの間違いでここにいるって、その人は知っているんだ!」
しかし鉄格子から解放された途端に、家畜のような首輪をつけられた。
とどのつまり彼は奴隷商人から、買い主つまり新しい「ご主人様」の手に売り渡されただけだった。
泡沫に見ることの許された夢がルーファスをかえって苦しめた。じゃらじゃらと鎖が擦れる不快な音が、終わらない悪夢を現実だと教えてくれる。
ルーファスの新しい「ご主人様」は、禿げ上がった肥満体の貴族で、躾と称して些細なことで暴力をふるい、足下に這いつくばって許しを乞う存在を見下ろすことで、己の欲望を満たす種類の人間だった。
それでもそのときのルーファスはまだ信じていた。母親や使用人に何かあったに違いない。問題が解決したら、居場所を探し出して迎えに来てくれるはずだと。
だからどんな劣悪な環境に身を置こうとも、心だけは濁りに染まず、誇り高くいようと誓っていた。
しかしそんなことは長くは続かなかった。ルーファスはある時、主から聞いてしまう。
母親に売られたのだという、残酷な真実を。
ルーファスはなぜ売られてしまったかわからなかった。家は裕福だったし、家族仲は良かったはずだ。
そのとき俄に、弟が産まれたときの母親の様子が甦った。底光りする冷たい目。あれは欲望に研ぎ澄まされた畜生の目ではなかったか。
(ああ……もしかしたらお母様は、僕のことが嫌いだったのかもしれない……)
ここは遠く離れた異国の地。確かめる術は何もなかった。愛する人に裏切られた真っ白な心は、容易に闇に堕ちていく。
誰も祝ってくれない6歳の誕生日。自分なんかが生まれてしまったその呪わしき日に、ルーファスは昔の自分と訣別した。




