246 賛同できない計画
(この子?)
マリアはルーファスの何気ない表現が妙にひっかかった。今までなら気にもしていなかったその言葉が、心に小さな染みを落とす。
「マリア?」
思うところがあってほんの少しだけ俯いていたら、ルーファスに声を掛けられた。マリアはハッとして、心配を宿した声音に柔らかな笑顔を返す。
「大丈夫よ。何もなかったわ」
「……そうか」
ルーファスはそれきり深く追及してはこなかった。マリアとしてもエドからまだ答えを聞きたくないと断られている以上、本人のいる前でほかに言いようがない。話してしまえば、結論も言わなければいけなくなる。
「ところで、明日はイザーク様のお手伝いをするの?」
「その話はさっき断ってきた」
ルーファスはマリアの荷物を当然のように部屋に戻して、結果のみを告げた。
「どうして?」
「事態が思ったより深刻だったからだ」
「どういうことですか?」
エドはルーファスとの相部屋を諦めたのか、そのまま自然に話に加わった。ルーファスは少し間を置く。
「……奴隷の転売どころか、若い女や子どもを組織的に誘拐をしていることが、オーラン殿の調査でわかったんだ。
転売は元手が必要だが、人を拐って売ればほとんど元手はいらないし、危険な分だけ利益は桁違いになる。
その中で、オレイユは有力な拠点の1つになっているらしい。国境の街は人の往来が激しく、行きずりの者も多いから足がつきにくいうえ、高値がつく異民族を含め多種多様な人間が混在している。奴らにとって、商品を物色するのに効率が良いんだろう」
「許せないな……。転売の方がマシに思えてくる」
ルーファスの淡々とした説明に、エドは顔をしかめて吐き捨てた。
「そうね。できる範囲だけでも、私たちに手伝えることはないの?」
ルーファスは暢気なマリアを煩わしそうに見た。
「俺は……その計画について、どうしても賛同できない部分があった。だから断った」
「?」
ルーファスの声が一段と低くなる。
「お前を……マリアを……そのための囮に使いたいと言われたからだ」




