243 純情な青年には刺激が強すぎます
R15ですが、そういうシーンはありません。
婚約破棄をさせたい気持ちはあるけれど、エドはマリアの幸せを邪魔したいとは、これっぽっちも思っていない。
むしろ誰よりも彼女の幸せを願っている自負があった。いや、正確には少し違う。自分の手で幸せにしてやりたい。ただそれだけだ。
しかしそのためには、確実に相手を幸せにできるという自信が不可欠なのに、今や男としての沽券が危うい。
無意識に口をつぐんでしまったエドの顔を、マリアは心配そうに覗きこんだ。彼は聞き手に徹してくれていたが、退屈させてしまったかもしれない。
マリアはエドに水を向けた。
「ところで、エドは、好きな人とどうなったの?」
「……ああ。フラれたよ。無残に……跡形もなく……」
マリアは形の良い眉をひそめた。大切な幼なじみが手ひどくフラれたことがわかって、その相手の女に非難めいた気持ちを抱く。
「そう……、その女の人はきっと見る目がないのね。エドはこんなにもステキなのに」
「ははは……お前が言うなよ……」
乾いた笑いの後に続く言葉は、ほとんど怨み言のようになってしまった。エドが話題を変えたくて視線を泳がせると、ベッドの上に無造作に置かれたピンクの袋が目に入る。
「あの袋はなんだ?」
「あれはクルーガー侯爵様のところでお世話になった、サクラさんという方からいただいたのよ。他の袋にはお菓子とか小物が入っていたから、これもそうかしら?」
「へぇー、侯爵家の菓子か。うまそうだな。中身を見てもいいか?」
「ええ」
エドが袋に手を入れると、サラリとしていて、それでいてツルリとしている布地の感触がした。そうして一気に中味を取り出すと、目の前に現れたのは、純情な青年には刺激が強すぎるものだった。
「な、な……#◎▲●■%※*ー!!」
「あ! それは……!!」
エドの手には透き通るような官能的な夜着と、ほとんど布がないレースの下着が握られていた。デリシーから別れの朝にもらった餞別だ。
マリアが慌てて取り返そうとするが、エドが椅子から立ち上がり、それを目線よりも高い位置で掲げるので、身長の問題から取り返せない。彼はそれを広げ、食い入るように見つめていた。
目に毒なのに、目が離せない。セクシーランジェリーには言い知れぬ、不思議な魔力があった。
「違うの! これは……!」
「マリア! これはいくらなんでも、上級者すぎるだろう! いつもこんなの着て励んでるのか?! 昔の純情なマリアはどこに行ったんだ!」
「返して! 違うの!」
「何が違うんだ! こんなスッケスケの、大切なところがほとんど隠れないような……。さすがにこれは……ああ、なんかもう本格的に泣けてきた……。マリアとルーファスさんが、そんなぐちゅぐちゅな関係だったなんて……」
「変な擬音使わないで!」
マリアはぴょんぴょん跳ねて、何とかして取り返そうとするが、届かない。マリアは正直に話した方が返してくれるのではないかと思って、赤裸々に話すことにした。自分の手に取り戻すことが最優先課題だ。
「それは、私とルーファスの関係が、なかなか先に進まないことを心配してくれたお姉様みたいな方からいただいたの……。これを着て頑張ってって。でも恥ずかしくて、まだ着てないの……」
マリアは羞恥で耳まで真っ赤になってしまう。同性に言うのも躊躇われるのに、異性の幼なじみに言うなんて罰ゲームでしかない。
マリアの声はほとんど消え入りそうなほど力がなかったが、エドの耳はピクリと動いた。
「ん、待て。今なんて言った?」
「えっと、お餞別としていただいたの」
「その後だ。関係が進まないからって……。まさか、まさか、ずっと同じ部屋に泊まってたのに……その……いたしてないのか……?」
マリアはコクリと頷いた。恥ずかしくて、とてもエドを直視できなかった。




