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没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第6章 ガルディア王国後編
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241 あともう少しで間に合ったのに

 イザークがマリアたちの部屋に来るとすぐに、ルーファスはそのまま彼と出掛けてしまった。どうやらオーランと約束している酒場で落ち合うらしい。マリアはまたしても留守番だ。


「エド? 少しお話したいことがあるのだけど。……いないの?」


 エドに婚約の経緯を話すため、マリアは隣室の扉をノックしてみたが、一向に返事はない。

 仕方なくマリアは自分の部屋へと戻り、何時になるかわからないルーファスを待たずに、寝る準備を始めた。


 無遠慮に忍び込む隙間風が、湯浴みを終えたマリアの身体を震わせる。

 トランクケースから上着を引っ張り出して、薄い夜着の上にそれを羽織ったところで、ふと気がついた。


(オーランさんの情報次第だけど、何もなければもしかしたら明日中に、ルーファスのご家族と会う可能性もあるのだわ。どんな格好をすれば良いのかしら?)


 ごそごそとトランクケースを漁って、1番体裁が整って見える格好を考える。恋人の家族に初めて会うのだから、少しでも良い印象を与えたかった。


 けれど、どれもこれもトランクケースに押し込んで一緒に長い旅をしてきたものだから、道のりの苦労を語るように、少しずつくたびれていた。

 それに所詮マリアの服はどれも安物で、どれほど丁寧に扱っても、いくら補修技術があろうとも、間に合わない部分も多くある。

 なんとか袖口にリボンがあしらわれているフェミニンで、まだ布に張りが残っている服を見つけて、ハンガーにかけた。少しだけ安心して息をつく。


(侯爵様の家を出るときの荷物の整理は、サクラさんがやってくれたのよね。イザーク様のお屋敷では慌ただしかったから、気にする余裕もなかったけど)


 トランクケースを改めて開いてみれば、マリアの知らない紙袋がいくつか入っていて、その小分けにされた袋の中には、見慣れぬ菓子や可愛らしい髪飾りなど、女の子が好きそうなものが沢山詰め込まれていた。

 さらにそのうちの1つには小さなカードが添えられていて、そこには几帳面そうな字で「親愛なるマリア様 これは私たちからのほんの気持ちです コウゲツ・サクラ」と(したた)められていた。マリアの心がじんわりとあたたかくなる。


(コウゲツさん、サクラさん、本当にありがとうございます。あ、ここにも袋が……)


 同じような大きさのピンクの袋を手に取ったとき、扉がノックされ、その向こうから覇気のない声が聞こえてきた。


「マリア? 俺だけど……。ちょっと話がある。入っていいか?」

「うん、私も話したかったの。散らかってるけど、どうぞ入って」


 マリアはピンクの袋をベッドの上に無造作に置いて、エドを迎え入れた。隣室とほぼ同じ間取りの部屋を、彼が複雑な気持ちで見回すと、1つしかないベッドのシーツがまだ綺麗なのを見て、とりあえず安堵する。


「えっと、どこかに座って……と言っても座るところがないわね。うーん……ベッドとそこの小さな椅子しかないから、ベッドに座ってもらってもいい?」


 マリアが自分が座る用に、脚が擦りきれてバランスの悪い椅子をベッド脇に置いた。

 エドは湯上がりのしどけない姿のマリアを直視できなくて、足下に視線を落とす。見てしまうと後が辛い。上着があって良かった。


「ベッドは、ちょっとやめておく。俺は椅子でいい」

「座り心地が悪そうだけど、いいの?」

「なんかそこには座りたくないんだ」


 そうしてすぐにエドが本題を切り出した。


「お前、本当にルーファスさんと婚約したのか? 手紙には失恋したって、はっきり書いてあったじゃないか」

「うん、報告が遅くなってしまって、ごめんなさい。実は、昨日の夜に、ルーファスと正式に書面でもって婚約したのよ」


 それを聞いたエドは、凄まじい勢いで立ち上がる。


「はぁ?! き、昨日の夜だって! 超最近じゃねーか!!!」


 椅子が撥ね飛ばされ、汚れの取りきれていない床に激しく音を立てて転がった。エドは顔面蒼白で項垂(うなだ)れる。


「……ありえねぇー。あと……あと少し早ければ……間に合ったのか……?」

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