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没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第6章 ガルディア王国後編
241/295

240 壁が薄いのでやめてください

R15ですが、そういうシーンはありません。

 オレイユの街に着いた頃には、もう日がとっぷりと暮れてしまっていた。

 宵闇でもまだ商店が開き、人の往来がそれなりにあるのは、国境の街ならではの活気と言えよう。

 今夜はイザークの常宿に空きがあったので、マリアたちもそこに泊まることが決まった。


 イザークの常宿といっても、特権階級専用の宿ではなく、特筆すべきところは何もない一般的な古宿だ。飲食の提供もないので、あらかじめ外で腹を満たしてから宿に入る。


 宿泊を希望したエドのため、ルーファスが2つだけ部屋を取ると、それを後方で見ていた本人はぶつぶつと何事かを呟いていた。(うつむ)いている顔は暗く、目は死んだ魚のようだ。


 マリアが聞き取れたのは「まさか今夜も……」の部分だけだったので、「今夜何かあるの?」と顔を覗きこんでみれば、虚ろな目は落ち着かなく宙を彷徨(さまよ)った。マリアは意味がわからず首をかしげる。


 所定の手続きを終え、歩く度に軋んだ音を立てる古ぼけた廊下を進むと、今夜宿泊する部屋が見えてきた。

 マリアとルーファスは同室で、エドはその隣の部屋だ。

 油の切れたぎこちない扉をルーファスが支えてやり、マリアを先に部屋に通すと、廊下で拳を握りしめて突っ立っているエドを振り返った。エドもまた目に力を込めて睨み返す。


「今夜は自重してくださいよ! 壁が薄いんですから」


 ルーファスはフッと意味深に口の端をもちあげた。手に入れた男の余裕が(にじ)む。


「今夜はイザーク様の手伝いをしてくる。何時になるかわからないから、非常時はマリアを頼む」

「ほっ……」


 エドは心底安堵した。他の男に好きな女が喰われている声なんて聞きたい訳がない。それでもルーファスに信頼され、マリアのことを頼まれたのは何となく誇らしかった。

 しかしルーファスはそんなに優しくはない。大切な女に(よこしま)な気持ちをもたせないように、(いじ)めなければ気が済まない。


「安心しろ。そんなに心配しなくても、マリアの色っぽい声は、お前なんかに聞かせない」


 その言葉にエドが呆気にとられていると、間髪入れずにルーファスが続けた。


「絶対に手を出すなよ」

「は、はい!」

「……出したら、どうなるかわかるよな?」

「ひ……!」


 ルーファスの冗談ではない殺気に、エドは何も言い返せなかった。悔しさが喉の奥から込み上げてヒリヒリするのに、緩慢な動きで閉まる扉をただ見つめることしかできない。

 生まれたままの姿で抱きあう2人の姿が扉越しに見える気がして、唇を強く噛み締めた。

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