238 道中の会話(最後の街オレイユまで)2
エドは眼光鋭く睨み返した。
「ルーファスさんの家まではついていきませんから、安心して下さいよ。俺はただ、マリアとゆっくり話がしたいだけです」
「なら、今話せ。そして、すぐ帰れ」
「うわぁー、ルーファスさん、マジ冷たい……。鬼畜の本領発揮ですか? 昔はマリアの前では、分厚過ぎる猫の皮を何枚も被ってたくせに……」
エドが闘志剥き出しにルーファスに言い返すと、きな臭い空気と気まずい沈黙が漂う。
「私も久しぶりだからエドとお話がしたいわ。でもここでは落ち着かないもの」
喧嘩腰のエドの態度に疑問をもちながらも、マリアがルーファスを取りなすと、何を思ったかイザークもエドに加勢した。
「そうだ、ルーファス。エドくんとやらが気の毒だろう。私たちの後をわざわざ追ってきてくれたんだよ? ……それに、私としても信頼できる人手は多い方が助かるし」
ルーファスは孤立無援に陥ったことに憮然としつつ、その苛立ちはすぐに頭の片隅へと追いやって、イザークの発言の真意を確認する。
「信頼できる人手」の意味を想像するのは容易いが、その予想は当たってほしいものではない。
「まさか不正な人身売買の摘発に、私たちを付き合わせる気ですか?」
その願いも虚しく、イザークは話が早いとばかりに首肯した。
「是非、お願いしたいと考えているよ。尤も、オーランからの報告次第だが」
ルーファスは嘆息した。
「おかしいと思ったんですよ。オレイユまで行くならイザーク様単騎で行く方がはるかに早いのに、馬車で足が遅い私たちとの同行を希望される時点で……」
「やってくれるのかい?」
「いえ、お断りします。先に行って1人で勝手にオーラン殿と合流でも何でも好きになさって下さい。これ以上、余計なことに巻き込まれるのは御免です」
「ルーファスさんは本当に冷たいんだな」
イザークはエドの真似をすると、わざとらしく肩を竦めた。マリアは2人やり取りを見ているだけでハラハラして、双方の顔を落ち着かなく見比べる。
「命の恩人のマリアと他国の近衛騎士のエドくんには、補助的なことだけをお願いするつもりだから、安心してくれていい。とりあえず私が最も必要としているのは君だ。ちょうど無職なんだろう? 」
クルーガー侯爵がルーファスの退団を受諾したので、ルーファスは確かに今や気楽な身分だが、強調された単語は彼の額に、くっきりとした青筋を浮き立たせた。
なんだか嵐の予感がして、マリアは仏頂面で黙っているエドに話しかける。いざというときに気楽なのは、やはり気心が知れた幼なじみだった。




