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没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第6章 ガルディア王国後編
238/295

237 道中の会話(最後の街オレイユまで)

 ベイナード王太子とエメラダ王女の衝突に巻き込まれるハプニングはあったものの、マリアたちは何とか午前中に出発することができた。

 今日はルシタニア王国との国境まで足を伸ばす予定で、その国境の街オレイユがマリアとルーファスにとって最後の宿泊地となる。


 今はその道中。

 国境の街と王都を繋ぐ道はよく整備されていて、充分に(なら)された広い道を、大きな荷物を背負った商人や異民族の親子、乗り合い馬車等が(せわ)しくすれ違っていた。


 アジャーニ家の馬車と並走する馬上には、イザークの姿が見える。彼はオレイユの街を拠点に別行動しているオーランと、現地で落ち合う約束をしているため、再び旅に同行してくれることになったのだ。


 マリアが幌から顔を覗かせれば、未だ残る朝の冷気が戯れに頬を撫でる。顔にわずかにかかった髪を指先で払い、イザークに話しかけた。


「イザーク様は、オーランさんとオレイユの街で何をなさるんですか?」


 イザークがマリアに視線を移す。


「実は少し前に、オレイユで不正な人身取引が行われているという情報を入手したんだ。現在オーランに調べさせているんだが、それが本当なら被害者を保護したいと思ってね」

「王子自ら、それも個人的に?」


 馭者台で話を聞いていたルーファスが、思わずといった様子で聞き返した。

 不正な人身売買は組織的で根が深く、捜査機関に任せた方が懸命であろう。個人の手には余る案件だ。

 ルーファスが遠回しに懸念を示したので、イザークの表情も曇る。


「ああ。我が国は残念ながら腐敗が進んでいる。その不正には、どうやら高位貴族が複数絡んでいるみたいなんだ。

 だからそういう噂はあっても、公権力は動けないんだ。確たる証拠を掴んで一網打尽すれば、話は別だが……」


 そのときだった。ごく自然に、違う声が混じった。


「アストリア王国は人身売買自体がないから、何をもって不正っていうのかわからないな」


 横から突然響いてきた声にルーファスが眉をひそめる。マリアも驚きのあまり、(まばた)きを忘れてしまった。

 イザークは声の主を確認すると親切にも説明してやる。


「人身取引は王室に認められた特定の業者しかできないことになっている。そしてそれぞれの買い主に売り渡した後は、一切の転売は禁止だ。

 受け取った金つまり借金を返しさえすれば、売られた人間はまた自由の身に戻れるんだが、転売が繰り返されると、肝心の本人の居場所がわからなくなってしまったり、取り戻すのに必要な金額が知らぬ間に上がってしまう(おそれ)があるからね。

 ちなみに結婚や養子縁組を前提としていれば、借金相当額で他人でも身請けができる」

「違法が発覚したら、その転売された人間はどうなるんですか?」


 会話に飛び込んできた青年は、物怖じもせず次の質問をした。


「もし違法な取引がなされたと確認されれば、過去に遡って、その取引自体が無効となるんだ。ただし、家族が業者から借りた金は返さなくていいし、家族も帰ってくる」

「転売はそんなに横行しているの……?」


 会話の闖入(ちんにゅう)者のことはさておき、マリアもイザークに尋ねる。


「ああ。特に異民族は物珍しさから高く売れるから、転売されやすい。私の屋敷にもいただろう? あの子も保護したんだ。身内が既に亡くなってしまっていたから、そのまま残ってもらったが……」

「私たちを案内してくれた、あの若い女の子ですか?」

「義兄上に見初められてしまったうえに、今回のことがあったからな……」


 イザークは言葉を濁した。王女に別れさせられるのは間違いないだろうから、身寄りもなく恋人も失ってしまったことになる。


「私は、王女殿下も被害者だと思いますよ」


 また横から聞こえてきた声にイザークは同意した。


「たしかに義兄上が悪い。己の身勝手で、2人の女性を不幸にした」

「話わかりますね。第8王子様は!」

「イザーク、だ」

「イザーク様、よろしくお願いいたします。私は……」


 ルーファスがついに耐えきれなくなった。


「なぜお前がここにいるんだ、エド!」

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