236 (エド視点) 王女の応援4
「婚約破棄……」
もう1度、俺はその言葉を噛みしめる。宗教上の理由から離婚はできないが、婚約破棄は双方の合意があればできるのは俺でも知っていた。
ただし、不貞及びその他婚約関係を継続するのが著しく困難だと認められて破棄となった場合、多額の慰謝料を相手方に支払う必要がある。そのうえ、不貞は重く罰せられるという。
俺の少ない知識だけでも、事態は深刻だ。
婚約は法律で守られた関係だから、通常ならばそれをひっくり返すのは難しい。
どうすれば良いのかもわからないまま、黙ってしまった俺を見て、王女殿下に水を向けられた。
「しばらく私はここに滞在するから、やるだけやってきたら? 私が許可を出すわ」
「しかし……」
「何もせずに諦めるより、前に進めるのではなくて? あなたの様子だとあの子の婚約は、寝耳に水だったんでしょう。話だけでも聞いてらっしゃいよ」
他国までズカズカと押し入り、夢の結婚式を叶えようとしている王女殿下の言葉には説得力があった。俺は、ついに決心した。
「はい……! 本当に婚約したのか、それだけでも聞いてみたいと思います」
「そうそう、その意気よ!」
そうして王女殿下はまた、ティーカップに細くない指をかける。いつもは釣り上がっている目尻を下げ、口は弧を描いていた。何だか楽しそうにしているのが、気にかかる。
「そのかわり、私のところに戻ってきたら、どういう経緯でその結果に至ったか、すべてを説明するのよ?」
「はい。もちろん報告はさせていただきます」
「では下がりなさい。しばらく自由にしてよろしくてよ。行ってらっしゃい!」
俺は王女殿下の激励を受け退室した。大きな音が鳴らないようにドアノブを最後まで持っていたら、完全に閉めきらぬ扉の隙間から興奮した声が聞こえてきた。
「あの恋物語の第2章が始まるのね! 身分違いを乗り越えてからの、三角関係……。ああ! 私、あの舞台が大好きなのよ」
おーい、しっかり聞こえてるぞー。ロマンス好きの王女殿下の暇潰しに利用された感じがしなくもないけど……まあ、いっか。
話し合いを見事な手腕で纏めてくれたイケメン仮面に感謝しつつ、俺は陽のさす方向に馬を走らせた。
次から新しい章が始まります。エピローグを除けば、最後の章になります。
エピローグは余韻をもたせるため、短めに終わる予定です(*´ω`*)




