235 (エド視点) 王女の応援3
「それはどういう意味ですか?」
「あら、わからない?」
王女殿下はわざとらしく肩を竦めてみせた。
自分と同じ歳のこの女は、強烈な個性に隠れてわかりにくいが、頭は悪くない。歯に衣着せぬ物言いは、オブラートに包み込むのが常識とされる貴族社会では好まれないようだが、俺は結構気に入っていた。
確かに王女殿下は感情の起伏が激しくて、癇癪を起こしたときの金切り声は凄まじい破壊力をもつ。
でもただのヒステリーが「超音波攻撃」として騎士たちに恐れられているのだから、それはそれですごいことだと思う。1つの特技として誇っても良いんじゃないかな?
それに俺にはなぜか「超音波耐性」という特殊能力があったから、何度叫ばれようと気にならない。一応、周りに流されて、何となく耳は塞ぐけど。
そんな俺を王女殿下はお気に召したらしく、何かにつけてよく話しかけてくる。それも友達を相手にしているような、ざっくばらんな様子で。
俺は卒業したばかりのひよっこ騎士で、しかもバリバリ平民だぜ? ここだけの話、不敬罪になったらどうしようかと、地味にビビってるんだが……。
「あなた、あのマリアって子が好きなんでしょう?」
「はい」
王女殿下に俺の気持ちがバレていた。隠してもいなかったからあっさりと認めると、王女殿下は拍子抜けしたようだった。若干つまらなさそうに続ける。
「婚約していると、言っていたわね。残念でしょう?」
「それは……」
「私は少し残念だったわ」
「……?」
「まぁ、私は良いわ。でも、あなたは良いの? このまま諦めて」
俺は王女殿下に嘘はつきたくなかった。いや、俺は自分の心に嘘をつきたくなかったんだ。
「諦めたく、ありません……」
俺が正直な気持ちを話すと、「我が意を得たり」と王女は表情で語った。
マリアの笑顔が脳裏に浮かんで、胸を切なさが締め付けた。婚約したと言われても、「はい、そうですか」とすぐに諦められるほど簡単な気持ちじゃない。俺の想いは年季が入ってるんだ。
「自由に恋ができる人は、とことんやれば良いのよ。それこそ結婚されたらおしまいよ。婚約破棄をさせるのはハードルは高いけど、まだチャンスはあるもの」
「婚約破棄……」
突然飛び出した不穏な単語を、俺は口の中だけで反芻した。




