234 (エド視点)王女の応援2
ルーファスさんがアジャーニ家に来たのは、俺が10歳、マリアは9歳、そしてルーファスさんが13歳のときだった。
13歳って、背伸びはしてみても大人にはなりきれない、そんな中途半端……いや、発展途上の年齢のはずだ。
それなのにあの人は、既に完成されていたように思う。
王立騎士学校の入学のため、ギルバート様は俺たちにも教育を受けさせてくれたんだけど、ルーファスさんは剣を握れば師匠を負かし、手綱を握ればどんな暴れ馬でも乗りこなし、机に向かえば家庭教師を唸らせていた。
ルーファスさんは合格後にアジャーニ家に下宿することが決まったらしいけど、それでも普通じゃないことはわかる。
それだけじゃなかった。ルーファスさんは誰もが振り返る端正な容姿に、貴族のような優雅な所作、それを彩る人当たりの良い笑顔まで、すべてにおいて完璧だったんだ。
でも俺は会った瞬間、本能的な恐怖を感じたのを覚えている。
あの紺碧の瞳は、ガラス玉のようにただ景色を反射していただけだったし、その笑顔は誰かに向けられたものではないことに、早々に気づいてしまったから。
父さんたちの話によると、ルーファスさんは東方の国の大きな商家の息子だってさ。
なんでよその国の商家の息子が、はるか遠いアストリア王国の騎士団に入るのかは、聞かされていないからよくわからない。大人ははっきりとは教えてくれなかったから。
でも俺は、そんな大人の事情より、真っ白なマリアをあの闇に犯されてしまうのが怖かった。
マリアを守る防波堤になりたくて、2人を遠ざけようと頑張ったけど、俺の気持ちを知る由もないマリアは、最初から全力でルーファスさんに懐いていた。
「ルーファスはとてもさみしそうなの」
そんなことを俺に打ち明けて、マリアは花を摘んではルーファスさんに渡し、美味しい菓子があれば共有し、楽しいことがあれば笑顔で話を聞かせていた。
実際は付きまとうマリアの世話を、見捨てきれないルーファスさんがひたすら世話をやいていたというのが正しいと思うけど……。
でもその他愛もない毎日は、ルーファスさんを確実に変えていった。
マリアは闇に引きずられないどころから、ルーファスさんを光の当たるところに引っ張り出してきた。
あの人がマリアだけに特別な執着を見せるようになったのも、その頃だ。
俺が昔のことを思い出していると、目の前では話し合いが終わったらしい。
書類が片付いたテーブルに、メイドが茶器の準備をする。カチャカチャと静かに音がして、紅茶の香りがふんわりと室内に広がった。きっとすげー良い茶葉なんだろうな。俺は味なんてわからないけど、雰囲気的に。
数人のメイドだけが残された静かな部屋で、王女殿下は今淹れられたばかりの紅茶に口をつけた。こういう所作は気品があるな。
「エドは指を咥えて見ているだけでいいのかしら?」
思わず見入ってしまった手元から少し視線をずらすと、俺を面白そうに見る瞳とぶつかった。
出会いの頃の話は番外編を書けたらいいなと思っています。早く完結させなければ(。´Д⊂)




