233 (エド視点) 王女の応援 1
マリアに心を残したまま、俺は第8王子の屋敷から王宮の一室へと移動した。
王女殿下と王太子殿下、クルーガー侯爵、そしてガルディア王国側の婚儀の担当者であろう偉そうなおっさんが5人ほど、その一室に籠り、話し合いをする。
俺も随行している騎士の一員として室内の警備を担っていたが、交替についた頃には、話し合いはもう終盤を迎えていた。
部屋の片隅に控えていても、王太子殿下と侯爵様のやりとりは嫌でも耳に入ってくる。
「やっぱり無理だ……。王女を横抱きにして、招待客全員の間をまわるなんて出来ない……。何百人来ると思っているんだ……」
「今から筋トレしてください」
「それに、王女の好きなところを皆の前で100個言えって、何の苦行だ!」
「苦行ではありません。愛の確認作業です」
王太子殿下が泣きを入れようと、声を荒げようと、侯爵様は涼しい顔を崩さなかった。まるで仮面をつけているかのようだ。
もう30も半ばのはずなのに、化け物みたいに若々しいもんな。俺もあんなイケメン仮面がほしい。あの仮面があったなら、お得な人生を送れそうだ。見た目って、やっぱり大切。
顔だけは真面目なまま、俺がそんなことを考えていると、侯爵様が伝家の宝刀を抜いた。
「王太子殿下はペラペラと文句が多くていらっしゃる。そのままでは、私の口まで、両国王陛下の前で動いてしまいそうです」
「! ……そ、それは困る!」
「では、よろしくお願いいたします」
その結果、王女殿下の要望は大小問わずすべて盛り込まれた。俺は内心で王太子殿下に同情する。
ガルディア王国側の偉そうなおっさんズは、きっと王太子殿下に口止めされてるんだな。弱みを握られていることを、父王にチクらないように。
俺だって鍛えてはいるけれど、ガタイの良い王女殿下をお姫様抱っこをして、何百人といる招待客の間をまわれる気はしない。
それに王女殿下の好きなところを100個言うのも精神的にキツそうだ。好きなところかぁ。よく食うところと、意外と優しくてロマンチストなところかな。
でも、やっぱり100個は無理だ。そのうち、「肉が好きなところ」とか「魚が好きなところ」とか、食材の羅列になるのが関の山だ。
王太子殿下の背中からは、威厳どころか哀愁が感じられた。結婚式が終わる頃には身も心も擦りきれて廃人になってるかもな。可哀想に。
俺は絶対に浮気はしない。
そう決意すると、自然と大好きなマリアの顔が浮かんだ。にやついてしまいそうな口元を敢えて引き締める。
久しぶりに会ったけど、マリアは相変わらず天使だった。ふわふわキラキラしてて、この世のものとは思えないほど可愛い。
でもイケメン仮面……もとい侯爵様の横顔を見ていたら、俺はふと、疑問に思った。
そういえば、侯爵様とマリア、さっきアイコンタクトしてたよな。マリアは結婚を嫌がって旅に出たはずなのに、いつの間にか仲良くなったんだ? 俺の知らない間に何が……?
いや、それよりも問題は、ルーファスさんがマリアのことを「婚約者」として紹介したことだ。
あいつ、本当に婚約したのかな。ルーファスさんにフラれたんじゃないのかよ? それこそ知らない間に何があったんだろう……。
俺はあいつのこと、ずっとずっと、物心ついたときからずっと、大好きだったのに……。




