表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第5章 王都シュバルツ編
228/295

227 貴人たちの修羅場

 絹を切り裂くような悲鳴を聞いたのは、翌朝まだ早い時間だった。はっきりとは聞き取れないが、何かをヒステリックに叫んでいるようだ。


「騒がしいな。様子を見てくる」

「待って、私も一緒に行くわ」


 出立のため早めに支度をしていたマリアは、鏡台の前に座っていた。髪を器用に結い上げながら、鏡ごしにルーファスと目を合わせると、彼は軽く頷く。

 マリアを下手に部屋に残すよりは、一緒にいた方が良いと判断したのだろう。


 扉を開けるといよいよ騒がしい。イザークの屋敷はホールが吹き抜けになっていて、2階から玄関先を覗くことができるのだが、階下は混乱の様相を呈していた。


 そこには、昨夜マリアたちの部屋に来た男性とイザークがいて、その周辺を騎士らしき複数の男性たちが取り囲んでいた。

 そして彼らと対峙するように、大柄な女性が鬼の形相で仁王立ちしている。その女性の周りには、やはり騎士らしき男性たちが群がっていた。

 (まなじり)をつり上げているその女性を(なだ)めつつ、昨夜の男性を必死に守っている、という図式だろうか。


「ルーファス、あそこで囲まれている男の人が、間違えて部屋に入ってきたのよ」


 マリアは、イザークに隠れるようにして小さくなっている男性を示した。


「それならば、あの男はガルディア王国の王太子で間違いない。あのガタイの良い女は、アストリア王国のエメラダ王女だからな」

「どうして王女様が……?」


 マリアはこれまでの旅路を思い返してみるが、それは容易(たやす)い道のりではなかった。王女がここにいることが()せない。


 肝心の喧嘩の内容については、王太子の女癖に関することのようだった。いわゆる男女の修羅場というやつで、マリアはルーファスの袖を軽く引く。


「なんだか、私たちが聞いてはいけないお話みたい。お部屋に戻りましょう?」

「ああ、そうだな」


 他人の色恋の揉め事に首を突っ込むのは無粋でしかない。

 ましてや王太子と王女は天上人だから、見て見ぬふりをしてさしあげるのが筋というものだ。


 マリアたちが静かに立ち去ろうとしたとき、王女の甲高い声が朝のホールに響き渡った。


「どの女に御執心(ごしゅうしん)ですの? なんでもベイナード様は、毛色の変わった女をお好みだとか! その身の程知らずな女をここに連れてきてくださいませんか?」


 ベイナードというのは王太子の名前であるが、その名を呼ぶ王女の声は、頭がどうにかなりそうなほど甲高かった。脳天を揺さぶる音量が、頭の芯を痺れさせる。


 一方、王太子は良い言い訳が思いつかないのか、事の成り行きについていけないのか、情けなくまごついていた。

 その態度がまた王女の怒りを増幅させ、けばけばしく紅をさした唇をひくつかせる。


「あらあら、その女を庇うのですか? 私はご挨拶したいだけですのよ? まったく……。許せない、許せませんわ……」


 そのとき、王女が胸をそらして息を吸った。ルーファスはそれを見て慌てて身構える。


「来るぞ!」

「え?」


 そうして戸惑っているままのマリアの耳を、大きな手でしっかりと塞いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ