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没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第5章 王都シュバルツ編
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226 猫パンチ+2

 時計の針が何度もその頂点を通り過ぎた後、ルーファスは愕然(がくぜん)と立ち尽くしていた。彼の腕の中には、ぐったりと身体を預けるマリアがいる。


 尤もルーファスとしては、そんなに激しく稽古をつけたつもりはない。おそらくマリアはただ眠いだけだろう。


「……想像以上だった。本当に申し訳ない。……俺はマリアを、舐めていた」


 血を吐くように苦しげに(うめ)くルーファスに、マリアは眠い目をこすりながら尋ねる。


「本当……? 少しは強くなった?」

「いや、まさかここまで出来の悪い生徒だとは思わなかった。もうお前は卒業だ。俺に教えられることは何もない」


 一方的に卒業させられたマリアは、鈍器で頭を殴られたかのようにショックを受けていた。


「……っ! そんな……お師匠様! 私を見捨てないで!」


 マリアはぶら下がるように、ルーファスにすがりついた。彼はゆっくりと首をふる。


「護身術はマリアには無理だ。いざとなったら、頭突きするなり、噛みつくなり、力の限り抵抗しろ。急所は教えただろ?」


 猫パンチから2つだけ増えた技らしきものに、マリアは渋々頷いた。


「はい……そうします……」


 ルーファスはマリアの頬を両手でそっと包んだ。


「というか、お前、最後の方は寝ながらやってただろ? お子様はさっさと寝ろ」

「もう、また子ども扱いして! そんなこと言うなら、本当に寝ちゃうんだからっ……」


 気力だけで睡眠欲に抗っていたため、ぷつりと糸が切れたマリアは一気に落ちる。

 ふらふらと天蓋のヴェールの中に消える後ろ姿を、ルーファスは目で追った。


(守られているだけでは嫌だということか。だが、どんなに教えたところで、マリアは人を傷つけられないだろうな。たとえそれが、正当防衛だとしても……)


 それはマリアの長所ではあるが、致命的な短所でもある。そのことでいつか足元をすくわれるときが来るかもしれない。


 (ひそ)やかに嘆息したルーファスが、灯りを消してベッドに入ると、マリアは既に健やかな寝息を立てていた。


「やっぱり、子どもだな。今日婚約したのに、あっさり寝やがって……」


 マリアの無防備な寝顔を少しだけ恨めしく思いながら、そっとブランケットをかけ直す。


「でも俺のところに帰って来てくれたから、許してやるか」


 ルーファスは最愛の人を起こさないように優しく抱きしめた。心安らぐ温もりを感じ、今日は久しぶりによく眠れそうだ。

 たとえその睡眠時間が、いつもより短かったとしても。

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