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没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第5章 王都シュバルツ編
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225 特訓の成果

「今回はたまたま大丈夫だったけれど、いつどこで何があるかわからないって、やっと気がついたの」


 驚いたように黙ってしまったルーファスに対し、マリアはその考えに至った経緯について、訥々(とつとつ)と言葉を編んだ。


「……だから、私に護身術を教えてください」


 決意を込めてルーファスを見つめるその瞳は、はっきりと緊張している。


「マリアに護身術か……」


 呟きながら、ルーファスは「似合わないな」と内心で苦笑した。

 今日は正式な婚約をかわした初めての夜で、彼女がその身に纏っている清楚な夜着は、護身術を学ぶためのものではないはずだ。

 マリアの容貌にも、性格にも、そして今の格好にも、護身術は似合わない。


 しかし真摯なマリアの気持ちを踏みにじることは避けたかった。

 それに2度あることは3度あるという。昔からの格言は、大抵の場合間違っていない。

 マリアは2度クルーガー侯爵によって(さら)われていて、当の侯爵は改心しているものの、彼女の容姿が嫌でも人目を惹くことを考えれば、いつ狼藉者(ろうぜきもの)に狙われてもおかしくはなかった。


「わかった。いつも俺がそばにいられるとは限らないからな。教えてやる」


 ルーファスが内心の葛藤を隠したまま受諾すると、マリアは(たちま)ち顔を明るくした。

 彼はすぐに、女性でもできそうな攻撃や返し技を、繰り返し丁寧に教える。


 そして……。


「えいっ!」

「…………」

「やぁ!」

「…………」


 マリアは技を披露した後、今は師匠となっている恋人を見上げた。彼女のセルフイメージでは、どの技も掛け声とともに格好良く決まっている。

 しかしルーファスは苦味走った顔をしていた。


「その猫パンチは何とかならないのか?」

「猫パンチって、強いの? なんだか弱そうだけど……」

「はぁ、そこからか。まぁ、マリアにそういう才能はまったく期待してないから、気長にやろう」

「少しは期待して?」


 しょんぼりという言葉を具現化したかのように、マリアはわかりやすく肩を落とした。

 か弱い身体で健気に努力をする姿に、何とかしてやりたいとルーファスの義侠(ぎきょう)心が煽られる。彼は優しく頭を撫でた。


「そんなに落ち込むな。そもそもマリアは小柄で華奢だから、相手を倒すことは考えなくて良い。逃げるための隙さえ作り出せれば、それで充分だ。一緒に頑張ろう」


 ルーファスの愛情のこもった励ましに、マリアはもう一度、その麗しい顔容(かんばせ)を上げた。

護身術の練習が、いつか役に立つといいですね(゜_゜)

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