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没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第5章 王都シュバルツ編
220/295

219 愛し合う2人へ

「私の負けだ」


 侯爵は首もとに当てられた剣を見て、自ら(いさぎよ)く敗北を認めた。

 打ち合いの速さに取り残されていたコウゲツが、慌ててルーファスの勝利を宣言する。

 そうして今ここに決闘は終幕を迎えた。


 剣をおさめたルーファスが自分の頬を(こす)ると、ほんの少しだけ手の甲に血がついた。侯爵は「してやったり」といった顔で、恋敵だった男の肩を軽く叩く。


「君がマリアを幸せにしてやってくれ」


 そう言って月光を浴びる彼の横顔は、とてもすっきりとしていた。


 ルーファスと侯爵は、試合を見守っていたマリアたちのもとに足を運ぶ。


「マリア、結果は見ての通りだ。長々と付き合わせてしまって、すまなかったね」

「侯爵様もルーファスも、お疲れさまでした」

「私も結構頑張っただろう?」

「はい。まさかあんなに侯爵様が強いとは、存じ上げませんでした」


 マリアは素直に侯爵を称賛した。ルーファスもそれには頷く。


「次の御前試合に特別枠で出たらどうですか? 文官にしておくのが勿体ない。はっきり言って騎士より強いでしょう」

「ルーファスにそう言ってもらえるとは光栄の極みだな」


 侯爵はまんざらでも無さそうに快活に笑った。サクラは結果を受け入れがたいのか、ひどく沈痛な面持ちをしていて、侯爵は困ったように慰める。


「サクラも元気を出せ。私はできることをやったんだ。一片たりとも悔いはない。

 さあ、いつまでもここにいても仕方ない。マリアはサクラに手伝ってもらって帰る準備をしておいで。ルーファスはこのまま私と一緒に応接室へ。マリアも支度が出来次第、応接室に来なさい。愛し合う君たちに、とっておきのプレゼントがある」


 言われた通り、マリアは急いで帰り支度をした。どこかに隠されていた荷物はサクラがまとめてくれ、その間に一般的な女性の旅装に着替える。

 髪も多少伸びてきたし、あと街1つでルーファスの故国に着くので、男装する必要はないと言われたからだ。


 応接間にマリアが行った時には、侯爵とルーファスが向かい合って何やら話し込んでいた。


「失礼します」

「ああ、マリア、そこに座りなさい」

「はい」


 マリアはルーファスのすぐ隣に腰かけた。目の前にはいつか見たあの書類と、もう1枚の書類が机の上に置かれていた。


「えっと……これは? 私の独身証明書と婚約の届出書……?」

「ああ。侯爵様が、俺たちの正式な婚約に必要な書類をすべてくださったんだ」


 マリアが驚いて、向かいに座る侯爵を見ると、彼は穏やかに促した。


「早く書きなさい。婚約を証明する人の欄には、私がサインしてあげよう」

「……はい! ありがとうございます!」


 婚約の届出書にルーファスの字が増えていくのを、マリアは夢見心地で眺めていた。

 しかし彼女はいざ自分の番になると、緊張で手が震えてしまった。落ちつこうと深呼吸しているマリアの背をルーファスが優しく撫でてくれる。


 マリアが何とか書き終えて、侯爵に書類を手渡すと、彼は今一度不備がないか確認してから、流麗な筆跡で証人の欄にサインをしてくれたのだった。

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