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没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第5章 王都シュバルツ編
219/295

218 恋の墓標

R15です。ほんの少しだけ流血あり。模擬剣なので擦過傷程度ですが。

 甲高い剣戟(けんげき)の音が鳴り響いていた。


 ルーファスの一撃は地を割りそうなほど重く、侯爵はその一太刀一太刀を受ける度、苦しげに顔を歪める。冷たい紺碧の瞳に熱い炎を宿した、自分より遥かに若い男を見た。


(マリアは、この強く勇敢な若者に奪われるだろう)


 喉元への打突を、侯爵は身体をそらして紙一重でかわす。


(負けるために戦うのも悪くない)


 ルーファスは返す刀で次の攻撃を繰り出すので、侯爵は間合いをとり直すことも、自分から攻めることも許されなかった。彼ができる唯一のことは、防御の姿勢を保ち、存在しないであろう隙を待つことだけだ。


(何もかも粉々に打ち砕いて、この想いごと(とむら)ってほしい)


 ルーファスに正面から打ち込まれ、後方で踏み止まろうとする左足が、持ちこたえられずに芝生ごと地面を(えぐ)る。


(せめて一太刀でも浴びせられたならば、それをもって墓標に捧げる花としよう)


 次の攻撃に備え、素早く後ろ足を前足に引き寄せた。激しい連続技に腕が痺れ、呼吸が上がる。脈動する心臓がドクドクとうるさかった。


(その散華(さんげ)は私を永遠に癒してくれるはずだ)


 そうして侯爵は、この憎くて(ねた)ましい若者を睨み付けた。久しぶりに訪れた長い睨み合いの後に、なぜかルーファスはマリアにちらりと視線を向ける。


 けれどもそれだけで、侯爵は終焉が間近に迫っていることを悟ってしまった。ルーファスはもう終わせるつもりに違いない。


 どのみちルーファスの攻撃に耐えかねて、握力がもちそうになかったのだからちょうどいい。次の攻撃が来れば、もはや剣を握ってはいられる状態ではないことはわかっていた。


(……せめて一太刀!!)


 ルーファスが一気に間合いを詰め、剣を上段に構えるのが見えた。侯爵もまた、防御を捨てて大きく踏み込む。そして、有らん限りの速度で剣を振った。


「……っ」


 侯爵が気がついたときには、喉元に剣が平行に当てられていた。嫌な光を放つ模擬剣が目に入る。

 これが真剣で、ここが戦場であれば、彼の首は間違いなく、地面に転がっていただろう。


「ふ……」


 それでも侯爵はにやりと笑った。ルーファスの頬には朱色の線が走っていた。そこからじんわりと滲む彼の血を、その目に映したから。

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