218 恋の墓標
R15です。ほんの少しだけ流血あり。模擬剣なので擦過傷程度ですが。
甲高い剣戟の音が鳴り響いていた。
ルーファスの一撃は地を割りそうなほど重く、侯爵はその一太刀一太刀を受ける度、苦しげに顔を歪める。冷たい紺碧の瞳に熱い炎を宿した、自分より遥かに若い男を見た。
(マリアは、この強く勇敢な若者に奪われるだろう)
喉元への打突を、侯爵は身体をそらして紙一重でかわす。
(負けるために戦うのも悪くない)
ルーファスは返す刀で次の攻撃を繰り出すので、侯爵は間合いをとり直すことも、自分から攻めることも許されなかった。彼ができる唯一のことは、防御の姿勢を保ち、存在しないであろう隙を待つことだけだ。
(何もかも粉々に打ち砕いて、この想いごと弔ってほしい)
ルーファスに正面から打ち込まれ、後方で踏み止まろうとする左足が、持ちこたえられずに芝生ごと地面を抉る。
(せめて一太刀でも浴びせられたならば、それをもって墓標に捧げる花としよう)
次の攻撃に備え、素早く後ろ足を前足に引き寄せた。激しい連続技に腕が痺れ、呼吸が上がる。脈動する心臓がドクドクとうるさかった。
(その散華は私を永遠に癒してくれるはずだ)
そうして侯爵は、この憎くて妬ましい若者を睨み付けた。久しぶりに訪れた長い睨み合いの後に、なぜかルーファスはマリアにちらりと視線を向ける。
けれどもそれだけで、侯爵は終焉が間近に迫っていることを悟ってしまった。ルーファスはもう終わせるつもりに違いない。
どのみちルーファスの攻撃に耐えかねて、握力がもちそうになかったのだからちょうどいい。次の攻撃が来れば、もはや剣を握ってはいられる状態ではないことはわかっていた。
(……せめて一太刀!!)
ルーファスが一気に間合いを詰め、剣を上段に構えるのが見えた。侯爵もまた、防御を捨てて大きく踏み込む。そして、有らん限りの速度で剣を振った。
「……っ」
侯爵が気がついたときには、喉元に剣が平行に当てられていた。嫌な光を放つ模擬剣が目に入る。
これが真剣で、ここが戦場であれば、彼の首は間違いなく、地面に転がっていただろう。
「ふ……」
それでも侯爵はにやりと笑った。ルーファスの頬には朱色の線が走っていた。そこからじんわりと滲む彼の血を、その目に映したから。




