表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第5章 王都シュバルツ編
217/295

216 気持ちを伝えること

(私の気持ち、伝わらなかった?)


 ふと、マリアが明るい方へと視線を走らせれば、侯爵とサクラ、コウゲツの3人の姿が橙色の光に浮かび上がっていた。彼らは侯爵を中心に輪になり、賑やかな声をあげていて、今ルーファスがいる場所とは別世界のようだ。


 侯爵は、使用人からの激励や心配の声に、困ったような、それでいて嬉しそうな顔をしていて、こちらを気にする様子もない。視線を戻したマリアには、ここの暗さが急に際立って見えた。


 そこでようやく気がついた。

 マリアは勇気を振り絞ってルーファスにお願いする。今から彼女がすることは、少し大胆なこと。


「ルーファス、あなたに大切なお話があるの。聞こえやすいように、(かが)んで?」


 彼は返事のかわりに言われた通り、長身の体躯をほんの少し折り曲げた。ちょっとだけ近づいてくれた彼に、マリアは懸命に背伸びをして首に手を絡ませる。

 そうして彼の唇に、そっとキスを落とした。


「……!」


 1度口づけしてしまえば、気持ちが溢れて止まらなかった。マリアから何度も優しく口づける。ルーファスはただ目を見開いて呆然としていた。


 マリアの背伸びしている脚が限界に達し、その腕をゆっくりとほどく。自分のもとに手を取り戻す前にルーファスの頬に触れると、彼はビクッと身体を震わせた。我に返ったのか、急に口元を覆い、目をそらした。


 珍しくはっきりと感情を出したルーファスに、自分から仕掛けたマリアまで動揺してしまった。

 屋外で自分から男性を襲うからには、それなりの覚悟はあったつもりだ。それなのに今さらながら恥ずかしくて、(たちま)ち頬が火照(ほて)る。

 羞恥で血が沸騰しそうになり、言い訳めいた言葉が口をついた。


「えっと……1回だけのつもりだったのに、なんか止まらなくなっちゃって……」

「…………」

「ルーファス……何か、言って……? 無言になられると、私、余計に恥ずかしいわ……」

「…………」

「あ……もしかして、嫌……だった?」


 朱をのぼらせた顔から、卒倒しそうな勢いで血の気が引き、マリアは一歩下がろうとして、ふらりとよろける。


「きゃっ!」


 そのとき突然マリアの視界が揺れた。転倒したのかと思ったが、気がつけばルーファスに腕を引かれ、そのまま抱きしめられていた。


 ルーファスは相変わらず無言だったが、そこに他人行儀のよそよそしさはなかった。あるのは情熱的な熱さ。マリアは安心して、身体を預け、彼の広い背中を愛しげに撫でた。


「……私の気持ちを疑っては、ダメよ?」


 彼の腕の中で仰ぎ見るて、強気で言ってみれば、ルーファスは少しだけ気まずそうな顔をした。


 身体を離し、マリアはルーファスを導くように、くるりと(きびす)を返す。彼女はしばらくして、ふいに振り返って悪戯っぽく微笑んだ。唇に人差し指をそっと当てて。


 マリアの微笑みに、ルーファスは腰にはいている剣をなぞった。その慣れた感触を確かめて、侯爵のもとに向かう。

 絶対に負けられないと、心に誓いながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ