表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第5章 王都シュバルツ編
214/295

213 たとえ敗れたとしても

 ルーファスは呆然と座り込んでいるマリアを優しく起こした。正面から真綿でくるむように、ふんわりと肩を抱く。


「マリア、俺たちが決めたことだ。それに従ってほしい」

「……ルーファス……なぜ……勝負を受けてしまうの……?」


 自分のせいで2人が怪我をするなんて、マリアには耐えられない。

 それに彼女の恋心は既にルーファスに捧げてしまっていて、もうほかの男性は愛せないと、彼女自身が誰よりも自覚していた。決闘をすることにどれほどの意味があるのか、マリアにはわからない。


「今はきっと……侯爵様も気が立っていらっしゃるんだわ……。だから、あのような言い方になってしまっただけよ……。挑発になんてのらないで……決闘なんて……やめて……」


 すがりつくマリアの頭を、ルーファスはそっと撫でた。震える指先がきゅっと彼の服を掴む。その(しわ)と涙で濃くなった服の色に、彼の胸がちくりと痛んだ。


 ルーファスは頑是(がんぜ)ない幼子に言い聞かすように、ゆっくりと諭した。


「マリア……心配はしなくていい。あの人に怪我もさせないし、俺は絶対に負けない」


 マリアが顔をあげると、ルーファスと目が合った。その紺碧の瞳に包まれて、彼女はようやく落ち着きを取り戻す。

 次に後ろを振り返ると、侯爵はすぐに頷いた。憂いを帯びた表情がマリアの心に焼き付く。


「侯爵様……」

「マリア……この方法しかないんだ。最後まで自分勝手な私を、どうか許してほしい」


 それから侯爵は口元を引き締めた。


「それでは、コウゲツ、準備してくれ。場所は中庭でいい。篝火(かがりび)の準備も頼む」

「……! はい、ご主人様!」


 突然命じられたコウゲツは緊張を隠して、慌ただしく退室する。


「マリアにも私たちの戦う(さま)をその目で見てほしい。サクラ、彼女に何か羽織るものを」

「……! はい、それではマリア様、私についてきて下さい」


 そして最後に、ルーファスと侯爵が残された。


「君にも武器と防具を貸す。体形は似ているから私のものを使えばいい」

「はい」

「ここに持ってくるから、待っててくれ」


 そうして侯爵はすれ違いざまに、脚を止めた。


「ルーファス……勝負を受けてくれて……感謝する」


 そうしてまた侯爵は去っていく。その背中はとても堂々としていた。

侯爵はルーファスの強さを知っています。

ルーファスも侯爵の気持ちを受けとりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ