212 愛するが故の覚悟
「ルーファス、君に決闘を申し込む。どちらがマリアにふさわしいか、はっきり決めようじゃないか」
侯爵が明確な意志をもって、ルーファスを睨み付ける。
「侯爵様……何を……」
マリアはあまりに無謀な申し出に、か細い声をあげた。
侯爵はごく最近、黄泉の国の深淵を覗いたばかりの身である。この状態で決闘を申し込むのは、正気の沙汰ではない。
何しろ、彼が今から対峙する相手は、御前試合で無敗の、あのルーファスだ。アストリア騎士団に関する要職についている侯爵が、ルーファスの強さを知らないはずはない。
ルーファスはすぐにはその申し出を受けなかった。侯爵の腹をさぐるように睨み返す。
「ルーファス、受けるのか受けないのか、はっきりしろ!」
無言のルーファスに焦れたのか、侯爵が鋭く叫んだ。ルーファスを侮辱するように冷ややかな薄ら笑いを浮かべる。
「まさか、私に負けるのが怖いのか? アストリア王国1の騎士ともあろう君が、そんな臆病者だったとはな! そんな男にマリアは渡せない!」
わざと挑発しているとしか思えない侯爵の言葉に、マリアは肝を冷やす。
しかしマリアがルーファスを見上げると、ルーファスは挑発をすべて受け止めたような凪いだ瞳をしていた。そして、静かに口を開いた。
「望むところです、私もあなたと剣を交えてみたかった。マリアは絶対に渡しはしません。受けて立ちましょう」
「それはこちらの台詞だ。勝者こそがマリアにふさわしい。マリア、わかったかい? 君もこの勝負の結果に従ってもらう」
侯爵はそう言って、マリアに優しい微笑みを向けた。その笑顔はまるで夕陽のように、マリアの心を理由のない切なさで染め上げる。
何かが終わる予感に、彼女の胸がさざめいた。
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ランキングからは消え去る日は近いと思われますが、なろう銀河のどこかで星屑のひとつとして連載は続きます。
今後ともよろしくお願いいたします(((^_^;)




