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没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第5章 王都シュバルツ編
211/295

210 奪い合い

 ルーファスは再び侯爵との距離を詰めていく。じりじりと追い詰められたマリアは、侯爵のすぐ前まで下がり、守るように両手を広げた。


「私がここを譲ったら、ルーファスは侯爵様に痛いことをするのでしょう? 侯爵様は3日前までは病床に臥していらしたのよ。ひどいことをしてはいけないわ……」


 その言葉に、ルーファスが冷たく吐き捨てた。


(よこしま)な考えを実行できる程度に、快復していればもう充分だろう」


 マリアはルーファスの圧倒的な迫力に完全に気圧(けお)されていた。

 それでも、誰かが傷つき、傷つけるのを黙って見てはいられない。ましてや自分が原因となっているのだから、震える身体を叱咤して彼女は立ち塞がった。


 一方、侯爵は信じられない気持ちで、健気(けなげ)な背中を眺めていた。()き止めていた愛しさが、また静かに湧き上がる。

 彼はついに我慢できなくなり、マリアの細い腰を強引に引き寄せた。誰にも渡せないというように、両腕をマリアの身体に強く絡ませる。

 彼女は驚いて侯爵を見上げた。


「侯爵……様……?」


 しかし、マリアと侯爵の視線が交わらないうちに、今度は別の方向から肩ごと(さら)うように腕を引っ張られる。

 前方に視線を前に戻すと、いつの間にかルーファスが剣を持っていない方の手で彼女の上腕を掴んでいた。


「ルーファス……?」


 腕をルーファスに、腰を侯爵にそれぞれ捕らえられ、マリアは動けなくなった。男たちは視線で牽制しながら無言で引っ張りあう。腕は抜けそうで、腰は砕けそうだ。繊細な身体が悲鳴をあげる。


「痛い……痛いわ……」

「マリアが痛いと言っています。侯爵様、本当に私のもとに彼女を送るつもりだったのならば、その手を離していただけませんか?」


 慇懃無礼(いんぎんぶれい)にルーファスが皮肉れば、侯爵も負けじと言い返した。


「それはこちらの台詞だ。ルーファスこそ、扉を粉砕するくらいの馬鹿力でマリアに触らないでほしい。彼女が壊れてしまうだろう。君が離せ」


 ますます強くなる2人の力があまりに痛くて、マリアは助けを求めてまた周囲を見渡した。

 しかし、コウゲツとサクラは置物のように気配を消しており、ブラックはブラックで、マリアのスカートの裾を懸命に引っ張っていた。

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