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没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第5章 王都シュバルツ編
206/295

205 破られた扉

 侯爵はその腕の中に、より一層強くマリアを閉じ込めた。ルーファスの気配が遠ざかり、彼女の鼓動が嫌な速さを刻む。


 しかし、それもほんの僅かな間のことだった。


「ひ、ひー! お()めください!」

「何をするんですかっ!?」


 コウゲツとサクラの絶叫が静寂を切り裂き、ルーファスの力強い声がマリアに届く。


「マリア! 扉から離れていろ!」


 ルーファスの言葉に、侯爵の顔から明らかに血の気が引いた。


「まさか、この扉を壊すつもりか……?! そんなことができる訳ないだろう……!」


 そうは言いつつも、侯爵はマリアを抱いたまま素早く後ずさった。下がり過ぎて壁に背がつくが、その当たった感触さえも気づけぬくらい彼は緊張していた。扉を睨み付ける侯爵の緊張は、布地ごしにマリアにも伝わってくる。


(ルーファスなら、きっと……)


 彼女は誰よりもルーファスを信じていた。


「「お止めくださいっ!」」


 バギィィッッ!


 コウゲツとサクラの悲鳴が重なるのと同時に、辺りに落雷のような爆音が轟いた。扉が凄まじい勢いで吹き飛び、侯爵とマリアが背中を預けているそのすぐ横の壁に、蝶番(ちょうつがい)の芯が激しく回転しながら突き刺さった。部屋にパラパラと埃が舞う。


 あり得ないほどの力で蹴破られた扉は無惨にひしゃげ、その場にいた者たちは完全に腰を抜かしていた。

 ただ1人、その扉を破壊した張本人を除いて。


「化け物か……」


 侯爵が扉の向こうに立つ男を見つめて力無く呟いた。その男、ルーファスは長い脚を悠然と下ろすと、すぐに侯爵の腕の中にいるマリアを視界に捉え、扉の残骸を避けながら大股で近づいていく。


 マリアとルーファスの視線が交わった刹那、お互いの感情が怒涛のごとく流れ込んだ。彼女の胸に燃え上がるような激しい恋情が(あふ)れてくる。マリアは侯爵の緩んだ手から抜け出し、弾かれたようにルーファスに駆け寄った。


「ルーファス……!」

「マリア……」


 飛び込むように抱きついたマリアを、ルーファスはしっかりと受け止めた。

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