205 破られた扉
侯爵はその腕の中に、より一層強くマリアを閉じ込めた。ルーファスの気配が遠ざかり、彼女の鼓動が嫌な速さを刻む。
しかし、それもほんの僅かな間のことだった。
「ひ、ひー! お止めください!」
「何をするんですかっ!?」
コウゲツとサクラの絶叫が静寂を切り裂き、ルーファスの力強い声がマリアに届く。
「マリア! 扉から離れていろ!」
ルーファスの言葉に、侯爵の顔から明らかに血の気が引いた。
「まさか、この扉を壊すつもりか……?! そんなことができる訳ないだろう……!」
そうは言いつつも、侯爵はマリアを抱いたまま素早く後ずさった。下がり過ぎて壁に背がつくが、その当たった感触さえも気づけぬくらい彼は緊張していた。扉を睨み付ける侯爵の緊張は、布地ごしにマリアにも伝わってくる。
(ルーファスなら、きっと……)
彼女は誰よりもルーファスを信じていた。
「「お止めくださいっ!」」
バギィィッッ!
コウゲツとサクラの悲鳴が重なるのと同時に、辺りに落雷のような爆音が轟いた。扉が凄まじい勢いで吹き飛び、侯爵とマリアが背中を預けているそのすぐ横の壁に、蝶番の芯が激しく回転しながら突き刺さった。部屋にパラパラと埃が舞う。
あり得ないほどの力で蹴破られた扉は無惨にひしゃげ、その場にいた者たちは完全に腰を抜かしていた。
ただ1人、その扉を破壊した張本人を除いて。
「化け物か……」
侯爵が扉の向こうに立つ男を見つめて力無く呟いた。その男、ルーファスは長い脚を悠然と下ろすと、すぐに侯爵の腕の中にいるマリアを視界に捉え、扉の残骸を避けながら大股で近づいていく。
マリアとルーファスの視線が交わった刹那、お互いの感情が怒涛のごとく流れ込んだ。彼女の胸に燃え上がるような激しい恋情が溢れてくる。マリアは侯爵の緩んだ手から抜け出し、弾かれたようにルーファスに駆け寄った。
「ルーファス……!」
「マリア……」
飛び込むように抱きついたマリアを、ルーファスはしっかりと受け止めた。




