表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第5章 王都シュバルツ編
202/295

201 運命の日

 侯爵は運命が決まるまでの3日間、驚くほどの快復ぶりをみせた。剣の素振り等で身体を動かしたり、仕事をしたりと、あまりに活動的なので、マリアは彼が生死の境を彷徨(さまよ)ったとは信じられないくらいだった。


 瞬く間に時は過ぎ、そうしていよいよ約束の日になった。マリアはそわそわと落ち着かない様子で、朝から窓の外を眺めていたが、昼を過ぎる頃には、門扉(もんぴ)の傍らにある樹木の陰に立って、ルーファスを待ち続けた。

 しかし愛しい恋人は一向に姿を見せない。やがて疲れて座り込んでしまった彼女の頭上から、優しい声が落ちてきた。


「マリア、そんなところに待っていないで部屋に入ろう。どこで待っていても同じだよ」

「それはそうなんですけど、1秒でも早く会いたくて……」


 彼女は恋する気持ちを吐息に溶かして、寂しげに(うつむ)いた。


「まだ……来ませんね……。もうとっくに解放されているはずなのに……」


 マリアは不安そうに呟く。彼女は解放の手順も何も知らないので、侯爵が指示を出せば、すぐに解放されると思っていた。

 恋に悩む彼女の姿は絵画のように美しく、侯爵は気づかれないように、そっと拳を握る。爪が食い込んで痛いのに、心の痛みはちっとも消せなかった。


「私は……君と過ごす残りわずかな時間を、とても大切に思っている」


 彼女が顔をあげると、侯爵は続けた。


「……だから、ルーファスが来るまでは、私のことだけを考えてくれないか?」


 マリアは侯爵の瞳の奥に隠された哀しみを見つけ、ほんの少し息を止める。それからすぐに努めて明るい声を出した。


「……そうですね! 失礼しました。侯爵様が送って下さるから、何も心配いらないのに、私ったらルーファスがなかなか来てくれないことが……なんだか……とても不安になってしまって……」


 明るかったはずの声は、最後は徐々に涙声になっていた。


 今日中にルーファスが来なければ、侯爵はマリアを綺麗な身体のまま帰すつもりはない。そうなれば、彼女の方からルーファスに別れを告げるのは明白だから、彼女なりに悪い予感がするのも何となくわかる気がした。


「大丈夫。きっと、ルーファスは今日中に来るよ」


 侯爵は落ち込むマリアを見ていられず、言いたくもない慰めの言葉を口にして、彼女の頭に優しく手を置いた。


「……はい」


 マリアは少し安心したようで、やおら立ち上がる。


「それでは、私はディナーの準備をしてきますね」

「マリアの料理を楽しみにしているよ」


 ぺこりと律儀に頭を下げて去ったマリアの姿が、侯爵の手の届かないところへと離れていく。


「心配してくださって、ありがとうございました!」


 振り返ったときの彼女の笑顔が、彼にはなぜかほんの少しだけ、ぼやけて見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ