2 没落の理由
アジャーニ家がこのような家計状況になったのは、先代であるマリアの父親が流行り病で亡くなってからだ。それはマリアが12歳のことだった。
母親はマリアが物心つく前に既に他界している。父はそのことを不憫に思っていたのであろうか。とても優しい父で、母親のいない分まで、一人娘のマリアに深い愛情を注いでくれた。
アジャーニ家は「子爵」であり、貴族の中では特別に高い身分というわけではなかったが、生活に困ることもなかった。ところが、マリアの父親が他界し、マリアの父親の腹違いの弟、つまり叔父が家を継いでから急激に家が傾くことになる。
叔父は人柄はものすごく良い。しかしそれだけの人だった。どこからか怪しい話を持ちかけられては金を騙しとられていた。それも何度も。そうしたことを繰り返していくうちにアジャーニ家の財産は見る間に溶けていったのである。
「そんなに結婚してほしいのなら、クルーガー侯爵のお話をお受けするしかないんじゃないかしら?」
マリアがドリーの言葉を聞いて、そう返したところ、ドリーは慌てた様子で反論した。
「とんでもない! クルーガー侯爵とは絶対に結婚させないと、亡きお父上様もおっしゃってたじゃないですか!」
「冗談よ。幼い頃の私を見初めたというのも、どこまで信じていいのかわからないし……」
実はマリアが11歳のときに、クルーガー侯爵との婚約話が持ち上がっていたことがある。本来なら格上の侯爵家からの婚約話を断るには余程の事情がなければならないが、マリアの父親は断固として断っていた。