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没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第2章 旅立ち前夜
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18 言えなかった言葉

 マリアとルーファスが街を歩いていると、道行く人が驚いたように彼らを見て、それから顔を赤くして目をそらすという光景が幾度も見られた。


 アストリア人の多くが、茶色の髪に緑色の瞳をもつので、ルーファスの黒髪に紺碧の瞳や、マリアの金髪に水色の瞳はどうしても目立ってしまう。

 並んで歩く2人の姿は、絵画のように美しかった。


 女性からの熱い視線を無視して、ルーファスは隣を歩くマリアに話しかける。


「今日はなにを買うおつもりですか?」

「野菜は家でつくってくれたものがあるから、果物とお肉を買おうと思うの。……でも叔父様ったら、このお金どうしたのかしら? また新しい商売に手を出していなければいいけど……」

「お嬢様は心配がつきませんね」


 ルーファスが困ったように笑ったので、マリアも自分の心配が杞憂に終わることを願った。


 買い物を終え、マリアは途中からずっと疑問に思っていたことをルーファスに尋ねる。


「ルーファス、干し肉とかドライフルーツとか日持ちのするものをずいぶん買っていたけれど、どこかに遠征でもするの?」


 王宮騎士であるルーファスは基本的に王都の中で勤務しているが、訓練で野外遠征に行くこともあった。


「これは違いますよ」

「……実家に帰るの?」


 ルーファスは実家と手紙のやりとりをしている様子はあったが、アストリア王国に来てから、今まで一度も里帰りをしていなかった。両親を失ってしまったマリアは、彼の両親のことが気にかかる。


「お嬢様は帰った方がいいと思いますか?」

「ええ、ルーファスはずっとご両親と会っていないでしょう? ご両親もたまには息子のお顔を見たいと思うの」

「考えておきます」

「あ、でも会えなくなるのはさみしいから……」


 マリアはここまで言って、「絶対帰ってきてね」という言葉をとっさに飲み込んだ。


 マリアには、ルーファスの人生を縛る権利などないと気づいたからだ。彼の実家の状況が変わっていれば、そのまま故郷にとどまることもあり得る。

 以前働いていた使用人たちの中にも、里帰りしたまま帰ってこられなかった者が何人かいた。

 それは親の病気だったり、結婚だったり、いろいろな事情があったけれど。


「何を言いかけたんですか?」


 ルーファスがマリアの顔を覗きこんだので、彼女は答えあぐねて視線を落とした。


「私の都合の言いように解釈しますよ」


 ルーファスが意味ありげな笑みを唇に乗せるが、うつむいていたマリアは気がつかない。ただ「そうしてちょうだい」とだけ答え、誤魔化すように会話を終わらせた。

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