185 驚くべき提案
決断の遅さを悔やむマリアを、侯爵は静かに諭していく。
「マリアは右も左もわからないこの広大な王都シュバルツで、どうやってルーファスを探し出すつもりなんだ? スラムは言うまでもないが、たとえ貴族街であっても、か弱い女性が1人で出歩けるほどここは甘くない。君が一刻も早く私のもとを去りたい気持ちはわかるが、それはただの蛮勇だ。絶対にやめた方が良い」
「……そんなこと、わかっています」
返答に窮した彼女は小さな声で言い返すのがやっとだった。
そもそもマリア自身も、1人でルーファスを探し出せるとは思っていない。だからこそイザークの屋敷に一旦身を寄せる計画を立てていた。イザークの屋敷はルーファスとの待ち合わせ場所でもあるし、何よりも王子であるイザークの力を借りられれば、ルーファスの捜索も容易になるだろう。
しかし、イザークの屋敷に行く方法がわからないから、街で情報収集する必要がある。そしてそれが多少の危険を伴うということも、彼女は理解しているつもりだ。
「……いや、マリアは全然わかっていない。ガルディア王国の貴族は裏家業に手を染めている者も多い。だから貴族街ですら怪しい輩が幅をきかせている。君みたいな子が無防備にさまよい歩いてたら、人買いに拐かされて、あっという間にゲームオーバーだ」
侯爵としては悪党どもが跳梁跋扈する場所に、可愛いマリアを放り出したくない一心だったが、言下に否定された彼女はどうにもやるせない。わかっているとかいないとか、そんなことは彼女にとっては大した問題ではない。
このままルーファスに会えないまま、時間だけが経過していくのが怖い。この1秒1秒が積み重なれば、いつか永遠になってしまう。
解決策を見い出せず、思い詰めた様子で俯いてしまったマリアに、侯爵は驚くべきことを提案にした。
「ここで待っていればいい」
彼は少し辛そうに顔を歪め、皮肉げな笑みを唇にのせる。
「3日経ってもルーファスが現れなければ、私が君を彼のところまで送ってあげよう」