181 決行の日
穏やかな昼下がり、今日もマリアは看病のために侯爵の部屋を訪れていた。天候に似合わず、彼女の心がざわついているのは、今日がいよいよ脱出計画を決行する日だからだ。先行きが不安な彼女は、とてもじゃないが看病に身が入らない。
(この後、サクラさんと看病を交替したら、部屋の目のつくところに手紙を置いて、それからブラックと一緒に裏門から出て、その後は誰か親切そうな人に道を聞いて……)
サクラが看病している時間帯は、コウゲツは屋敷の事務仕事、マリアは休憩時間となっている。サクラは侯爵の部屋からは出ないはずだし、昼下がりのコウゲツはよく机に向かったまま船をこいでいた。
また、ブラックがいる場所はとうに確認済みで、裏門の鍵は内側からなら簡単に開けられて、何よりも目立たない。昨晩書いた手紙には、侯爵家を出ていくこととお世話になった感謝の気持ちを書いた。ここでの生活について、思うところがないわけでもなかったが、それは自分の心の奥底に鍵をかけてしまっておく。
しかし肝心の侯爵家の門を出た後については、親切そうな人に道を聞くことしか決まっていなかった。それはつまり、何も決まっていないということに他ならない。
(本当に大丈夫かしら……)
マリアは人知れず嘆息した。