179 役目を終えて
マリアとコウゲツは主治医を見送った後、そのまま看病を替わった。侯爵はもはや苦悶の表情は浮かべておらず、顔色も良い。規則正しい寝息を立てて眠る彼の姿を見て、彼女はもうこれ以上侯爵家に長居をする必要はないと悟った。
誠心誠意看病した侯爵の完治を見届けられないのは少し残念な気もするが、これから先はサクラとコウゲツの2人が、敬愛する己の主人のため頑張ってくれるはずだ。
(もう私にできることは終わったわよね? ルーファスとの約束通り、早くイザーク様のところに行かないと……)
容態が落ち着いているため、看病と言っても特にすることもないので、彼女は気持ちを切り替えて今後のことを考えた。
マリアは一刻も早くこの場所から立ち去るつもりでいたが、ふと思い直す。サクラとコウゲツに話を聞いてから出立しても、遅くはないのではないか、と。
(イザーク様のお屋敷の住所も、そこへ行くための貴族街への通行証も、侯爵様に燃やされてしまったわ……。でも住所は朧気には覚えてはいるから、その近くまで行けば何とかなりそうよね。そもそもこのお屋敷が貴族街にあるのなら、通行証はもう必要ないはずだし……。やっぱりサクラさんたちに、聞けることはすべて聞いてから逃げた方が良いのかも……)
サクラとコウゲツにはもちろん逃げ出すことは内緒だ。彼らからは再三侯爵と結婚してこの屋敷に残ってほしいと口説かれているので、彼らにどれほど親しみを感じていても、さすがのマリアも警戒していた。