177 使用人たちの希望
「それはそうと、そろそろ交替の時間ですよ。こんなこと本人の前では絶対に言えませんが、コウゲツはもうお爺ちゃんですから……」
サクラがわざとらしく声を潜めて言った。コウゲツは年齢のわりに矍鑠としているが、今は明らかに疲労の色が濃く、いつ倒れてもおかしくない状態だった。そのためマリアは彼の負担を減らすため、いつもかなり早めに看病を交替している。
侯爵の看病をする決断をしたことも含めて、こうした一連のマリアの行動はサクラとコウゲツの胸を打ったようだ。主人である侯爵の命令とは関係なしに、今や彼ら自身がマリアと侯爵が結ばれることを願っているらしい。今日もまた看病に向かおうとするマリアにサクラが言う。
「マリア様がこうして残ってくださって、私たちは本当に感謝しています。ご主人様が治っても、このままここにいてください」
マリアはそっとため息をついて、はっきりと断った。
「何度もお伝えしていますが、それはできません。侯爵様が治ったら、私は婚約者を探しにいかないと……。それでは、そろそろコウゲツさんと交替してきますね」
主人が主人なら、その使用人も折れない心をもっているのだろうか。もはやこの応酬はルーティンと化している。
一方で断ることが苦手なマリアは、心に細かい鑢をかけられたような疲労に見舞われていた。彼女はこの場に居たくなくて、そそくさと侯爵の看病へと向かうのだった。