176 ブラックとの再会
発作は頻繁で、マリアは看病している間、一睡もできなかった。発作が起こる度に薬を吸入させ、落ち着くまで背中を優しく撫で続ける。熱が高いので、水に浸したタオルを何度も替え、汗をかけば丁寧に拭き取ってあげた。
侯爵はほとんどの時間を目を閉じていたが、時々焦点の合わない瞳で虚空を見つめ、苦しみで唸り声をあげる。マリアは自分の父の姿を重ね、苦しむ彼の姿に涙を抑えることができなかった。父が病に倒れたときはまだマリアは幼くて、ままごとのような看病しかさせてもらえなかったが、父もこのように昼夜分かたぬ苦しみに襲われていたのかと思うと、今さらながらに胸が締め付けられる。
看病と休憩時間以外は、マリアは料理や掃除、洗濯と休む暇もなくひたすら屋敷の仕事をこなした。そのときに自由に庭に出られるので、ブラックの姿を探すのが日課となっていた。
ある日、小さな物置の陰で鎖に繋がれているブラックの姿を発見した。ブラックのそばにはきれいな水と空っぽの皿があり、毛づやや血色の良さから、きちんと世話をしてもらっているのは明らかだった。ブラックはマリアを見て、千切れんばかりに尻尾を振る。
ブラックと一緒に屋敷から去るつもりだったマリアは、元気な様子を見て安堵の息をついた。そこへサクラが餌をもってやってくる。
「マリア様、こんなところにいらしたんですか? そのワンちゃんもきちんとお世話してますから大丈夫ですよ」
「はい……。大変な中、この子の面倒まで見てくださって、本当にありがとうございます」
「これもご主人様の指示だったんですよ」
「……え?」
「マリア様のお世話と一緒に、この子犬の世話もするようにと仰せつかっていたんです」
マリアは暢気に尻尾をふっているブラックを見て、なんだか切ない思いにとらわれるのだった。