175 過酷な看病
マリアの父ギルバートの命を奪い、そして今侯爵を苦しめている病は非常に厄介なものだった。高熱による意識障害や激しい痛みを伴う発作を起こし、患者の命を確実に蝕んでいく。
昼夜関係なく間隔も定まらない発作は、寝ずの看病を必要とし、患者のみならず看病する者までもが次々と倒れてしまうことが多かった。また感染力が非常に強く、感染を恐れ、患者の周りからは引き潮のように人が去っていく。
侯爵の看病は、マリア、コウゲツ、サクラの3人で交替して行い、1人は休み、もう1人は屋敷の雑務をこなした。コウゲツはマリアの看病したいという申し出に、驚きを隠そうともしなかったが、高齢のコウゲツは体力的に既に限界だったから、彼もまた涙を流してマリアの決断を喜んだ。
マリアは久しぶりに侯爵に会い、すっかり病みやつれ面変わりした様子に心を痛めた。彼は苦悶の表情で浅い呼吸を繰り返し、固く瞳を閉じている。当然、マリアの存在にはまったく気がついていないようだった。
「侯爵様……必ず治りますから、頑張ってくださいね」
マリアは侯爵の高熱で汗ばんだ手を握って、心から励ました。たとえ聞こえていなくても、彼に届くと信じて。