表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第5章 王都シュバルツ編
175/295

174 決断

「侯爵様が……重い病気……」


 マリアは残酷な現実に頭がついていかなかった。侯爵の疲れた様子が脳裏に浮かぶ。


「今、ここシュバルツで病が流行っているのはご存知ですか? ご主人様はそれにかかっておいでです。感染力が強いので、ご主人様は意識のあるうちに、かかったことのない使用人たちはすべて里に帰らせました。私たちはこの屋敷の最低限の維持とご主人様の看病で手一杯で、マリア様のことまで手が回りません。私たちは大切なご主人様のお世話に集中したいのです」


 感情を抑え、滔々(とうとう)と説明してくれるサクラが、マリアにはとても痛々しく見えた。


「ですから心配なさらなくても、マリア様は堂々と帰ればよろしいのです。今ご主人様のお世話をしてるコウゲツも、マリア様を逃がすことは知っています」


 侯爵がマリアにしたことは、たとえどんなに彼女に優しかったとしても、鍍金(めっき)を剥がせば、それはただの欲望にまみれた監禁だった。簡単に許せるものではない。


 しかし彼は今、重い病と闘っているという。それに乗じて逃げることこそ、人として許されないことではないのだろうか。父ギルバートの尊い命が奪われた悲しい記憶が甦る。その一方で今なら確実に逃げられるのも、また事実だった。


 そのときマリアの中から、何かがスッと分離していく。そこに立っていたのは幼い日の自分だった。敬愛する父だけを死出の旅へと行かせてしまった、罪悪感と孤独に(さいな)まれた、あの頃の自分。


 マリアは自分の心の内を知り、決断を下した。知ってしまったからには見捨てることなんてできない。


「あの……私にも看病を手伝わせていただけませんか?」


 サクラは零れそうなほど目を見開いた。信じられないようなものを見る目でマリアを見つめる。


「以前、私と父は侯爵様と同じ病にかかり、私は助かりましたが、父は亡くなってしまいました……。微力ですが、看病のお手伝いなら少しはできると思います」

「マリア様……!」


 サクラはマリアの手を取って涙を流した。マリアは父を奪った病に、これ以上尊い命を刈り取らせたくなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ