172 無意味な尋問2
アストリア騎士団に関する裏方の実質的なトップは、あのクルーガー侯爵だ。彼ならエドからの手紙をもとに、ルーファスたちの居場所を突き止めることなど造作もないだろう。ソンムでかなりタイムロスをしているから、先手を打たれていたとしても仕方がなかった。
「それなら手紙を書くのは良いですか? 彼女の無事を確認したい」
ルーファスの提案に、壮年の騎士は困ったように眉尻を下げた。
「それも証拠隠滅の恐れがあるとかで、許可されていない。そもそも婚約者と別れを惜しむ時間をやったのも、騎士どうしのせめてもの情けだったんだぞ。なにせ『可及的速やかに』と、本当にくどいくらいに言われていたんだから」
「……わかりました」
ルーファスもここで揉め事を起こして、これ以上事態を悪化させることは避けたかった。隙をついて逃げ出そうと思えば、そうできるだけの実力が彼にはあったが、本当に犯罪者として追われる身となってしまってはマリアを幸せにできない。それこそ侯爵の思う壺だった。侯爵と直接対決でもできれば話は別だろうが。
男性騎士が部屋から出ていったあと、ルーファスは1人、机の上で神に祈るように両手を組んだ。目を瞑ると、マリアの不安げな姿が瞼の裏に浮かぶ。
海千山千の侯爵から彼女が逃げ出せるとは到底考えられないから、彼の魔の手に落ちているのは間違いないだろう。彼女はいつまで純潔を守りきれるのか。最悪、既に散らされてしまった可能性もある。そうなった場合、彼女は不必要な負い目を感じて、ルーファスのもとには戻ってこないだろう。
ルーファスは幾千もの針で串刺しにされたような鋭い胸の痛みに、顔をしかめた。それでもマリアを愛しているから、必ず彼女を助け出すつもりだ。
「マリア、どうか無事で……」
愛しい恋人の名前は虚空に消え、ルーファスはただ彼女の無事を祈った。
読んでいただいた方はわかると思いますが、マリアはまだ純潔を命懸けで守ってます。安心してください。ただ状況的には手籠めにされてもおかしくはなかったということです。