171 無意味な尋問1
「もう何も聞くことはないでしょう? 早く私を解放してください。婚約者をいつまでも異国に一人にしてはおけない」
ガルディア王国治安部隊の関連施設の一室で、ルーファスは目の前に座る壮年の騎士に詰め寄った。ルーファスは話せることは既にすべて話してしまったし、尋問すらない無駄な待ち時間が多く、はっきり言ってここに留め置かれる意味がわからない。
「ああ、あの娘か。今まで君がご令嬢たちの艶めいたお誘いにも、一切靡かなかった理由がわかったよ。今度紹介してくれないか」
壮年の騎士はどこか遠くを眺めて言う。過ぎ去りし青春時代でも思い出しているのだろうか。その暢気な様子はルーファスを苛立たせるには充分だった。
「そんなことよりも、一刻も早く解放してください!」
「たしかに、あんな可愛い子をいつまでも1人にしておくのは危険かもしれない」
「でしたら早く!」
「うーん、そうは言ってもなぁ。私も君が関係ないとわかっているんだが、上からなかなか赦しが出なくてね。私も所詮組織の一員。上の命令には逆らえないんだ」
「『上』?」
もちろん尋問というものは、身柄の拘束という人権の問題を孕むので、騎士1人の意思で行えるものではない。そのため「上」が絡んでいるのは至極当然のことなのだが、他国の施設を借りてまで行うのはかなり大事になってしまう。
「上の上の上の……かなり上の意向だよ」
騎士の答えはルーファスの予想通りのものだった。
「とりあえず君を解放する許可が出ないんだ。もっと深く尋問しろというだけで。しかも最近はその指示すらないからどうしようもない。でも聞いた話だと、君は休暇のあとに騎士団をやめる予定なんだろう? タイミングとしては充分に怪しいから、そう言われても仕方ないさ」
騎士は言葉にほんの少しの棘を含ませて答えた。
「そもそも、どうして私たちがあそこに宿泊していることを知っていたのですか?」
ルーファスは気になっていたことを尋ねる。
「ああ、上から言われた通りにしただけだよ。あの宿に君が女と泊まったから、『可及的速やかに』引っ張ってこいって」
「あと何か言われましたか?」
「あとは……女は無関係だから、君に抵抗された場合は容赦はいらないが、女の方には一切手出し無用だとも言われたな。君には勝てる気はしないから、素直についてきてもらえて安心したよ」
騎士はルーファスの気も知らずに、わざとらしく肩をすくめた。