168 (侯爵視点)許されていたならば
マリアは心の浮気もしないので、安心して読んでください。何か言われるとすぐに動揺するだけです。
私はマリアの愛を希っていた。彼女の心のあたたかいところに、私がいないことはよくわかっている。それは当たり前のことで、マリアにひどいことをしてきたし、今もこうして監禁まがいのことをしている。
それでもマリアは、こんな私にも笑顔を見せてくれるようになって、その笑顔は何よりも私を癒した。
しかし彼女との幸せな毎日は現実であって、私が無理やり作り出した幻に過ぎない。その幸福は、やがては蜃気楼のように儚く消えていくのだろう。彼女は今もほかの男を愛しているのだから。
でもそのことが堪らなく寂しい。恨まれても仕方がないこんな私のことを気遣い、労って逃げ出さなかった彼女に、同情ではなく愛されたかった。
どこを切り取っても美しい天使のようなマリアを、こうして無理やり手に入れようとする己のあさましさが嫌になってしまう。だからと言って、そう簡単に諦められるものではなかった。こうして1つ屋根の下で毎日を過ごしているうちに、ますますマリアへの想いは深くなる。
「私とルーファスは何が違う? ……色々と嫌われるようなことをしてきた自覚はあるが、それでも……君を想う気持ちは本物なんだ」
ルーファスのことなんて忘れてほしいのに、私は敢えてマリアの前でその名前を出した。彼女は私の質問に明らかに戸惑っている様子で、言葉を懸命に探しているのがわかる。私をなるべく傷つけないようにとの、彼女なりの優しさなのか。
「侯爵様は屋敷ごと私を強引に手に入れようとしましたよね……? それがとても怖くて、嫌だったんです。今だってそうです。でもルーファスは……かなり強引なところもあるけれど、基本的には私の気持ちを尊重してくれます。それに彼は、私が自分の気持ちに気づく前からずっと私を見守ってくれていて、私にとっていつの間にかとてもかけがえのない人になっていたんです」
私はマリアの拙い言葉に黙って耳を傾けていた。彼女は申し訳なさそうにしていたが、そんな優しさなんていらないと思った。
ひどいことでも言ってくれたなら、「この程度の女だったのか」と幻滅できるのに。
「私だって、あんな手を使わなくても君をそばに置いておけるのならそうしていたよ。何度も……君との婚約を正式に申し込んだが、君の周りが決して許してはくれなかった。……もし君のそばにいられたのが私だったら、私のことを愛してくれた?」