165 鳥籠の主の疲労
毎日部屋から連れ出されるたび、マリアは侯爵とも少しずつ世間話をするようになっていた。彼は仕事でガルディア王国に来ているようで、自分の帰国の際には、そのままマリアを連れ帰るつもりらしい。
侯爵は時々ひどく疲れている様子で、マリアは彼の体調を心配せずにはいられないほどだった。尤も、籠の鳥の彼女が諸悪の根元である鳥籠の主を労るというのも、随分とおかしな話だったが。
それでも見て見ぬふりなどできなかったマリアは、ある時余計なこととは思いながらも侯爵に思いきって提案した。
「差し出がましいとは思いますが、侯爵様は大変お疲れのご様子……。私を部屋から連れ出してくださるのはとてもありがたいのですが、どうか侯爵様こそお休みになってください」
侯爵はマリアの申し出に虚をつかれたようだった。彼女にひどいことをしていると自覚している彼にとって、まさかその張本人から気遣われるとは予想外のことだったのだろう。彼は小さな声で「参ったな」と呟いた。
「私は……たとえ少しの時間であってもマリアに会いたいんだ。それにマリアこそ、狭い部屋にいるのは気が滅入るだろう?」
「でも……とてもお疲れのご様子なので……」
改めて口に出した言葉を反芻してみると、マリアも本当におかしいと思う。ルーファスのところに帰りたいのに、部屋の中に閉じ込められたままで構わないと自ら申し出るなんて。それに侯爵が疲れていればいるほど、マリアが逃げ出す機会は増えることも、頭ではよくわかっていた。
それでも白皙の美貌に影を落とし、深く悩んでいる様子の侯爵をとても放ってはおくことはできなかった。
「まさか君に気遣われてしまうとは……」
困ったような表情を浮かべる侯爵だったが、表情とは裏腹にその口調はなんだかうれしそうだった。




