164 見えざる本心
侯爵の言葉が意味することは、マリアにもすぐにわかってしまった。彼女は侯爵の手により、そのまま屋敷の奥にある殺風景な小部屋に連れていかれた。部屋には簡素なベッドがあるだけで、格子のついた明かり取り窓が、高い位置から部屋にわずかな光を落としている。
マリアはこの部屋に閉じ込められてしまうことを悟り、着飾った美しい姿のままですがるように懇願した。
「何をされたって私の気持ちは変わりません。お願いです、もう帰してください!」
「君が死ぬなんて物騒なことを言うからだ。大切なマリアを死なせたくない」
そう言って、侯爵は優しくマリアの顎の輪郭を撫でた。口づけでもされてしまうのかと警戒した彼女だったが、意外にも彼の瞳の奥には哀しい色が宿っていることに気がついた。
マリアは侯爵の本心に触れた気がして、思わず彼の瞳を覗いてしまう。2人の間に微妙な雰囲気の変化が生じた。
しかし視線が絡んで数秒後に、侯爵はマリアから本心を隠すように気まずげに自分から瞳をそらした。そうして次にマリアと向き合ったときには、彼はいつもの余裕を取り戻していた。
「可愛いマリア。早く私のものになるといい」
ガチャリと鍵がしまる音がして、マリアは無情にも部屋に閉じ込められてしまった。
部屋には監視役兼世話役の女性が交替でつき、時間帯はバラバラだが、1日1回だけ侯爵が部屋から連れ出してくれる。食事もきちんと与えられているし、暇つぶしの本や絵をかく道具なども与えてくれたので、自由がないこと以外は我慢できないこともなかった。
それに侯爵は基本的にどこまでもマリアに優しかった。というよりも彼は誰にでも優しく、マリアが見ている限り、使用人たちからもとても慕われているようだった。彼の屋敷の使用人たちがよく教育されていて極めて忠実なのもそれ故なのだろう。
マリアは自分を籠の鳥にしている侯爵という人物を測りかねていた。