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没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第5章 王都シュバルツ編
162/295

161 引きちぎられた絆

本当にR15です。かわいそうなのや、強引なのが少しでも苦手な方は読まないでください。

 そのとき侯爵が突然、マリアの女性らしいほっそりとした首筋に触れた。彼女の胸元をささやかに飾る星形のネックレスを掬い上げる。

 国境の街サーベルンのときは気づかれなかったのに、下着姿の状態ではさすがに見つかってしまった。


「これはどうしたの?」


 マリアは侯爵に触れられ、思わずびくりと身体を強張らせた。


「これは……自分で買いました……。気に入っているので、どうか外さないでください……」


 ルーファスから贈られたものだなんて言えるわけもなく、マリアは咄嗟に震える声で嘘をついた。


「ふーん……」


 侯爵はつまらなさそうに、星の中を飾る小さな紺碧と水色の宝石をなぞった。そうして何を思ったか、彼は(にわか)に強い力でネックレスを引きちぎった。


 引きちぎられた衝撃で星形の飾りは絨毯の上まで弾けとび、侯爵の手には無惨な残骸と化したチェーンだけが残される。


「それと一緒に、これも捨ててくれ」


 侯爵は顎で絨毯の上に落ちていた飾りを指し、メイドの1人にチェーンを手渡した。


「あ……」


 マリアはメイドよりも先に星形の飾りだけでも拾おうとするが、その動きは侯爵に腕をつかまれることで、あっけなく阻まれてしまった。

 大切なネックレスはマリアの目の前でメイドによって捨てられる。


 侯爵の大きな手はマリアの剥き出しの華奢な腕をとらえたままで、彼は呆然としている彼女の繊細な二の腕の内側に口づけた。ルーファス以外にはふれられたことのない白い柔肌に紅い痕がつけられる。

 マリアはチリリとした痛みにようやく我にかえって、咄嗟に自由な方の手で侯爵の肩を押し、身を捩って懸命に抵抗した。


 侯爵は新雪に散る血のような紅を見て、満足そうに彼女を抱き締めた。


「あんな安物は君にはふさわしくない。もっと似合うものを私から贈ろう。これからはマリアがわざわざ()()()買う必要はない」


 侯爵はいかにも優しく、きれいな笑顔でマリアに言った。彼女はネックレスとともにルーファスとの絆まで失ってしまったような気がして、涙で視界が滲むのを止められなかった。

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