159 異国での孤独
ルーファスは約束の3日が過ぎても戻ってこなかった。
マリアは異国での孤独にまんじりともせずに耐えていたが、彼の指示通り、ひとまずイザークのもとに身を寄せることにする。
貴族街に入るための通行証には、イザークのサインと屋敷の住所が書かれていた。
これはイザークがマリアたちを屋敷に招待してくれたときに渡してくれたもので、彼女は大切にその紙をしまった。
宿の主人に馬車を呼んでくれるように頼むと、不安そうなマリアにあたたかいお茶を出してくれる。
マリアたちが乗ってきたアジャーニ家の馬車は、別料金を払ってそのまま宿に置いてもらい、馬たちの世話もお願いした。ブラックは何かあったときのために一緒に連れていくことにする。
これらはすべてルーファスから前もって指示されていたことで、彼女が危険な目にあわないようにとの配慮だった。
落ち着かない気持ちで馬車を待っていると、宿の主人がその到着を告げた。
マリアが御者に目的地を伝えると、貴族街に入るための通行証を要求されたので、彼女はすぐにそれを手渡す。
馬車はゆるゆると彼女をのせて走り出した。規則的な車輪の音と小気味良い馬の足音が響く。
「ねぇ、ブラック。ルーファスは大丈夫よね? 変なことに巻き込まれていないといいけれど……」
馬車のカーテンは閉められており、なぜか開かないようになっていた。ブラックはほのかに漏れる日の光のもと、金色の瞳で己の主を見つめる。
その瞳には不安そうなマリアの姿が映っていたので、彼女はしっかりしなくてはと気持ちを奮い立たせた。
ルーファスがいなくても、自分の身くらい自分で守れなければ、彼に申し訳なかった。
やがて馬車が刻む心地よい揺れに、マリアは自然と深い眠りに落ちていた。ルーファスがいなくなってからまともに眠っていなかったから、それは仕方のないことだった。
どれくらいの時間が経過したのだろう。どこをどう通ったのかまったくわからないまま、マリアは御者に声をかけられる。
「つきましたよ」
眠い目をこすりながら降りると、馬車は貴族の屋敷の前にとめられていた。
マリアは出てきた屋敷の使用人に案内され、すぐに客間へと通された。