16 王宮騎士ルーファス
「ルーファス、お帰りなさい! お仕事お疲れさまでした」
マリアより頭2つ分ほど背の高いルーファスを、彼女は輝く笑顔で迎えた。彼は王宮での宿直勤務を終え、今帰ってきたところだった。
ルーファスは2年前に王立騎士学校を卒業し、今や栄光あるアストリア騎士団の一員である。
20歳の若さで既に分隊長となっており、実力主義とは言いながらも、やはり貴族の子弟が有利な騎士団においては、目を見張るスピードで昇進を遂げていた。
この4年の間に、彼の端正な美貌には精悍さと男の色気が加わり、鍛え上げられた長身の体躯は、服の上からでもわかるほどしなやかで逞しい。
マリアはルーファスに見惚れてしまうことがあり、彼はそんな彼女にいつも優しい微笑みを返してくれた。
ルーファスは王宮騎士となった今でも、アジャーニ家から王宮に通っている。彼が一人前の王宮騎士となってしまったら、家を出ていってしまうと恐れていたマリアは、そのことをとても喜んだ。
それなのにマリアは、ルーファスに対して、幼いときのように接することができなくなっていた。
昔なら帰ってきたらすぐにでも抱きついて、彼のぬくもりに身を任せていたのに……。
マリアはルーファスにふれられると、その部分が熱を帯び、胸が甘く疼く謎の症状に見舞われていた。もし彼に抱きしめられたりすれば、全身が熱くなって、速くなる鼓動に胸が破裂しそうだ。
でも、この気持ちが何なのか、彼女にはわからない。大好きなのにふれられなくて、ふれられるとドキドキが止まらなくなってしまう、この症状の正体が。
一方ルーファスは今でも、幼いときとまったく態度が変わらなかった。
あるとき、マリアは自分のおかしな態度が彼を不快にさせていないか心配で、そのことを本人に思いきって打ち明けた。
すると彼は昔のように彼女を抱きしめる。
「それを私にいうなんて、お嬢様はまだまだ子どもで……でも本当にかわいい方ですね」
「ルーファス、離して……! あなたにさわられると、ドキドキして変になっちゃう……!」
たった今相談したばかりなのに、また自分を悩ませるルーファスに、マリアは頬を染め、潤んだ瞳で抗議した。そう、彼は昔から変わらない。いつでも余裕なままだ。
けれど彼はそのままマリアの首筋に顔を埋め、耳元に唇を寄せた。吐息が耳にかかり、くすぐったい。
そして挑発的に囁いた。
「マリア、早く大人になれよ……。俺がその症状の理由も、それ以上のことも、何もかも全部、お前に教えてやるから……」
ルーファスはゆっくり身体を離すと、マリアの唇にふれるかふれないかの、優しい優しいキスを落とした。
ルーファスは一人前の騎士になったので、表向きの一人称が「僕」から「私」に変わっています。
本性でたときは変わらず「俺」です。




