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没落令嬢は護衛騎士と旅に出ます  作者: つきのくみん
第5章 王都シュバルツ編
159/295

158 突然の別れ

 ベッドから部屋の入り口は見えないため、誰が来たのかはわからないが、こんな時間に宿の個室を訪れるのは只事ではない。マリアにはその話の内容はほとんど聞き取れなかったが、途切れ途切れに聞こえてくるルーファスの声音はなんだか重いものだった。


 やがて扉が閉まる音がして、ようやくルーファスが戻ってきた。彼は不安そうなマリアを見て、これから話さなければいけない内容が、もっと彼女を不安にさせてしまうことに心を痛めた。


「アストリア騎士団で重大な事案が発生しているらしい。俺も事情を聞かれることになった。緊急に行かなければならない」

「え、まさか今から……? 何があったの?」

「現時点では詳しく話してはくれなかったが、国家の存続に関わることのようだ。事が事だけに急いでいると言っていた」

「すぐに帰って来られるわよね?」


 マリアは嫌な予感がして、彼の服の袖を掴んだ。


「俺はまだあくまでもアストリア騎士団の一員だから、事情聴取されるのも仕方がない。それに1人の例外もなく全員に話を聞いて回っているそうだ。無関係であることがわかれば、すぐに戻って来られるとは思うが、3日経っても俺が戻ってこなかったら、マリアはイザーク様のところに身を寄せてほしい」


 そうしてマリアにいくつか細かい指示をしてから、ルーファスは未練を断ち切るように寄り添う彼女をそっと引き離した。マリアの瞳が悲しみに潤む。


「今も扉の外で待ってもらっているんだ。もう行かなくては……。すまないなマリア、本当は俺も、お前を1人にはしたくない」

「うん……」

「愛している。どうか信じて待っていてほしい」


 彼等は最後にもう一度だけ口づけを交わした。たとえ離れていても、お互いの心は変わらないと信じて。


「お待たせしてすみません。ありがとうございます」


 ルーファスは扉の外で待っていてくれた男たちのところに戻った。彼を迎えに来たのは、顔見知りの壮年の男性騎士と文官の男性の2人だった。男性騎士の方が言う。


「婚約者に別れは済んだのか? いや、こちらこそ、こんな時間に突然お邪魔してすまないと思っている。可及的速やかにと言われていてな」


 そのとき別れを見送りたくて、マリアが扉のところまで来てしまった。男たちは突然姿を現した、この世ならぬ可憐な花のような彼の婚約者を見て、魂が抜けたように言葉を失った。マリアが挨拶をすると我に返ったのか、今度は逆に穴が空くほど熱心に見つめる。マリアはその視線を避けるように、ルーファスの陰に隠れて小さな声で伝えた。


「ルーファス、行ってらっしゃい。待っているから、必ず戻って来てね」

「ああ、行ってくる」


 彼はその背中を優しく押して、部屋の中に彼女を戻した。夜着の上に羽織ものをしただけのたおやかなマリアを、ほかの男たちの目にあまり触れさせたくなかったからだ。


 そうしてルーファスは男たちとともに去っていった。何よりも大切なマリアを、1人だけ残して。

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