154 王都シュバルツ
王都シュバルツについたときには、もう太陽は西の空に沈み始めていた。
シュバルツは大国ガルディア王国の王都の名にふさわしい荘厳な城塞都市で、都市のどこからでも見上げられる小高い場所に立派な王城がそびえ立っている。
それはまるで監視されていると人々に錯覚させるような、強い王権の象徴だった。
「私はこのままあなたたちと別れて、お店に顔を出すわ。王都に来たときは、また2人でお店まで遊びに来てね。精一杯のおもてなしをするわ」
デリシーは艶っぽい笑みをルージュの唇にのせてそう言うと、颯爽と去って行った。やけにあっさりとした別れに、マリアの瞳から涙がこぼれ落ちるのも間に合わなかったくらいだ。
それでも後から、ルーファスがマリアにこっそり教えてくれた。
「デリシーにしては珍しく泣きそうになってたな。あいつは湿っぽいのは嫌いだから、涙で別れたくないんだろう」
「うん……ルーファスのお姉さん代わりだけあって、とっても良い人だったわ。また、必ず会いに来ましょうね?」
マリアが背の高いルーファスを見上げて言うと、彼はうれしそうに頷いた。
「そうだな。結婚してから、また会いに来ようか」
実は彼は最初、違いすぎるマリアとデリシーとの相性を心配していた。彼女たちが姉妹のように打ち解けてくれたのはうれしい誤算だった。
「それにしても、疫病が流行っていると聞いたが、見たところそう影響はなさそうだな。やはり流行っているといっても、このあたりでは病人は部屋にこもっているのかもしれないな……。スラムだと、路上に行き倒れがいるんだろうが」
「流行り病って、お父様が亡くなられたあの病気のことよね? ルーファスもアストリア王国に来る前に、かかったことがあるって聞いたけど」
「俺の国では、幼い頃にかかる奴が多いんだ。大人になってからかかると生死に関わるが、子どものうちは軽く済むみたいだな。1度かかってしまえば、もうかかることはないから、俺たちは大丈夫だろう。
だからと言ってのんびりしてばかりもいられない。ソンムで長逗留してしまったから、準備を整えて早めに出よう」
「今からイザーク様のお屋敷にいくの?」
「いや、今日はもう街の宿に泊まって、明日顔を出そう。出発の準備に1日はかかるだろうから、その間イザーク様のお屋敷でマリアには休んでもらうつもりだ」