151 エドは?
手紙の話になり、マリアの頭に疑問が過る。
「あの手紙……? そういえばどうしてルーファスは、私が叔父様に手紙を書くのを止めたの? 叔父様が侯爵様を慕っているのなら、手紙については侯爵様にはお話しないと思うのだけど……」
ルーファスは呆れたようにひとつため息をついた。
「俺が心配しているのは、エドに出してしまった方の手紙だ。仮にマレーリー様に出していたら、正直絶望的だ。あの人は侯爵が自分の話を聞いてくれるのがうれしいという、ただそれだけの理由で手紙の内容をペラペラ話すだろう。さすがに後から気づいたら、悔やむんだろうが。それにしてもお前は……本当にマレーリー様のことをわかっていないんだな」
マリアは責められたような気持ちになって肩を竦めたが、それでも彼女はどこか楽観的だった。
「でもエドに出した手紙は心配いらないと思うの。いくら侯爵様でも他人の手紙を読む権利はないはずよ。だからきっと大丈夫よ」
マリアが努めて明るく言うので、ルーファスもそう信じたい気持ちになる。
「……そうだといいんだけどな」
それでも拭いきれない不安が、彼の心に澱のように沈んでいた。
「あとひとつ聞いてもいい?」
「なんだ?」
「エドは……エドは、あのままよね? 私と同じように、何も知らなかったのよね?」
快活な幼なじみの姿を思い浮かべてマリアは尋ねた。エドまでもが今回の舞台裏を知っていたら、それこそ彼女だけが何も知らなかったことになる。彼は幼なじみであり、同じ立場で物を考えることができる貴重な存在だと思っていた。
「安心しろ。あいつは何にも考えてないし、何も知らないはずだ」
「そう……、なんだか安心したかも」
マリアはエドの太陽のような笑顔を思い出して、懐かしくあたたかい気持ちになった。彼は今頃どうしているだろうか。今度いつ会えるのだろう。
(考えてみたら、こんなに長くエドと離れていたことなんてなかったわ。旅が終わって落ち着いたら、エドに会いたいわ。久しぶりに会えたら、色々話したいこともあるし……)
彼女は知らず知らずのうちにやわらかな微笑みを浮かべていた。