149 もしもの話
「仮定の話は意味がないかもしれないけれど……もし侯爵様以外の人にお屋敷を売っていたら、私はどうなっていたの?」
マリアの質問についてはルーファスも考えたことがあるようで、彼はすぐに答えてくれた。
「あくまでも俺の予想だが、一応マレーリー様は後見役として、マリアを誰か適当な相手と結婚させようとするはずだ。侯爵ほどの相手は滅多にいないだろうが、それなりの相手を探そうと努力はすると思う。
ただしマレーリー様が手際よく結婚相手を見つけられるとは思えないから、すぐに侯爵には察知されてしまうはずだ。そうしたら、あの男は何かしらの強硬手段に出るだろう。相手の家を潰すとか、色々な手が考えられる。侯爵にはそれができるだけの能力も権力もあるからな」
マリアは自分の置かれていた状況を改めて認識し、怖くなってしまった。すべてを知った今となっては、あの頃の安穏と過ごしていた自分が恥ずかしい。
「私は何も知らずに過ごしていたのね……。ルーファスがここまで連れ出してくれたことには、本当に感謝しないといけないわ」
「自分で言うのもおかしいが、マレーリー様もよく知っている手近な男に嫁がせた方が安心なんだろう。俺がマリアを連れて帰りたいと申し出たときも、とても喜んでくれた。でも実際はたとえ俺から申し出なくても、マレーリー様はお前を俺に預けたと思う」
実は以前からマレーリーは、ルーファスとエドに、マリアをもらってほしいと冗談めかして何度か話をもちかけていた。しかし肝心のマリアがあまりにも奥手すぎて、なかなか実現しなかったという経緯がある。
「さすがにクルーガー侯爵も、マレーリー様の気持ちに気がついている頃かもな。あの男の嫌そうな顔が目に浮かぶ」
ルーファスは皮肉げに口角を持ち上げたが、マリアには何がおかしいのかよくわからなかった。